【「スモールワールズ」一穂ミチ先生(ネタバレ注意)】各話のあらすじ・感想・考察をまとめてみた!2022年本屋大賞ノミネート作!リスタートの勇気をくれる!

日常

こんにちは、きなこぬこです。

今回は一穂ミチ先生の「スモールワールズ」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。

2022年本屋大賞にノミネート、さらには第165回直木賞にもノミネートされていました!

今作に収録されている短編のひとつである「愛を適量」は、YouTubeでPVが公開されていますよ!


引用元:一穂ミチ直木賞候補作『スモールワールズ』PV公開! YouTube

あらすじ

ネオンテトラ

妊娠できず悩む美和は、いつか生まれてくるはずの子どものために準備している部屋でネオンテトラを飼っていた。ある日、姪の有紗の同級生で父親から暴力を受けて家に帰りづらく感じている男子中学生の蓮沼笙一と出会い、週に何度かコンビニで話をする仲になる。

魔王の帰還

転校したばかりで学校に馴染めずにいた鉄二の実家に結婚して家を出た姉が突然戻ってきた。姉と町を歩いている時に駄菓子屋で店番をしていた同級生の住谷菜々子と会い、姉の思いつきにより三人で金魚すくい選手権に出場することになる。

ピクニック

夫を早くに亡くした希和子は、娘の瑛里子と共に仲睦まじく暮らしていた。結婚した瑛里子は未希を出産するが、想像以上の育児の大変さによって精神的に追い詰められていく。未希が成長するにつれて育児は落ち着き瑛里子が精神的に安定してきた頃、希和子に未希を預けて単身赴任している夫に会いに行く。しかし、希和子がみていたはずの未希が突然死してしまう。

花うた

兄を衝動的に殺された新藤深雪は、お世話になっている弁護士の薦めで兄を殺して刑務所にいる向井秋生と文通を始める。”殺人犯”ではなく1人の人間である”向井秋生”と時間をかけてやり取りをしていく中で、2人の関係が少しずつ変化していく。

愛を適量

高校教師の慎悟が家は、自宅玄関の前で「娘」だった「息子」の佳澄と15年ぶりに再会し、海外で手術をするまでの間居候をさせて欲しいと言われる。奇妙な共同生活を始めた慎悟は、佳澄の影響で徐々に生活が変化していく。

式日

高校時代の後輩から1年ぶりに連絡があり、後輩の父が亡くなったため葬式への出席を依頼される。後輩との出会いやこれまでの会話を思い返しながら待ち合わせ場所へと向かう。

以下はネタバレを含みます。

感想

誰でもいい。俺たちの断片を、知ってくれ。

この言葉は本作の最後に収録されている短編「式日」の中で出てくる言葉ですが、この本に収録されている全ての短編に当てはまる言葉なのかなと感じました。

人にはそれぞれの人生があり、それぞれの物語があります。それらはその人が認識しているその人だけの小さな世界と言っても過言ではないでしょう。今作はそんな小さな世界の中で起こる断片を集めた短編集のように感じました。

個人的に一番気に入っているのは「魔王の帰還」ですかね!

一見がさつそうに見える逞しい姉がとても優しい人で、弟もそのことをよく理解し尊敬していながらも姉を茶化す心の声が合間に入るのでクスッと笑えます。姉と弟の絶妙な距離感を描き出していて面白かったです!ラストも感動でき、姉を応援したくなりますね!

映像化されていた「愛を適量」も非常に感動しました。

佳澄から影響を受けて少しずつ変わっていく慎悟ですが、佳澄も慎悟と再会することで心境が変化していたことが終盤に明かされます。ブランクはあっても父が娘を思う気持ちに嘘偽りはなく、不器用でどうやって関わるのが良いのか迷っていたことが分かり胸が温かくなりました。

考察

今回は「ネオンテトラ」「魔王の帰還」「愛を適量」について考察したものをまとめてみました!

ネオンテトラ

妊娠できずに悩んでいた美和は、ある日自分の部屋で懇意にしていた笙一と姪の有紗が性行為をしていることに気付いてしまいます。それを機に彼女は出来る限り日中は仕事で家を空け、笙一と有紗の関係を黙認しました。そして、有紗が妊娠してからは誰も味方がいなくなった有紗の寄り添い、未成年で子供を育てる能力のない有紗の代わりに赤ん坊を引き取りました。

ネオンテトラは通常の飼育環境下では繁殖できず、産卵用の水槽が別に必要となることが説明されています。「通常の飼育環境下では繁殖できない」というのは妊娠できない美和「産卵用の水槽」とは笙一と有紗が性行為をしていたネオンテトラの水槽がある部屋のことを指しているのでしょう。美和にとって笙一と有紗は勝手に子供を作るネオンテトラと同じであり、美和は環境を整えただけにすぎません。ネオンテトラは子供を引き取ってからはトイレに流して処分していますが、同様に子供を産んで自分に渡した笙一と有紗も美和にとって不要となったため、最低限の連絡以外取らない関係になったのでしょう。

2人の関係に気づいてからの美和の目的は有紗に笙一の子供を産ませ、自分が引き取って育てることでした。笙一の子供を育てたいと思いながらも自分では生むことができないと考えた美和は、有紗に産ませることで目的を達成したのでした。血も一応繋がっていますしね……

魔王の帰還

姉の真央の夫は難病の診断を受けて真央に離婚するように頼みます。書かれている内容から夫が診断されたのは筋萎縮性側索硬化症(ALS)なのではないかと予想しているのですが……確かに徐々に体の自由を奪われていく辛い病気です。身体は動かなくなっていくのに対し意識は異常がないことが殊更に辛い病気であるとも学んでいます。真央の将来的な介護の苦労体が動かなくなっていく自分を見られることを考えると、離婚を望む気持ちも分かります。そして、そんな夫と別れたくないと思う真央の気持ちも分かります。

鉄二は前の高校で上級生に虐められえていた同級生を助けたものの、本人は助けられることを望んでおらず逆に恨まれてしまいます。その経験から「いいとか悪いとか、正しいとか間違ってるとか、決めたところでまじ無意味って思う」と語り、以下のようにも話しています。

「気持ちが勝つとか負けるとか、あるから」

真央とその夫のそれぞれの気持ちにはどちらが正しいなんてものはありません。ただただ真央は夫の気持ちの強さに負けて実家に帰って来たのでしょう。そんな真央を支えてもう一度奮い立たせたのは、普段から真央を魔王と言って茶化している鉄二でした。鉄二が姉である真央の心の強さを信じて過剰に干渉することなく待ったからこそ、金魚すくい選手権の会場に現れた真央は覚悟決めて動くことが出来るようになったのでしょう。

最後に負けが決まっているシナリオでも、立ちはだかるから魔王なんだろ。

最後のこの言葉は、真央の見かけではなく心の強さを信じている鉄二が送った言葉として感動しますよね。RPGなどで登場する魔王はラスボスで強かったとしても、必ず勇者に倒されてしまいます。そういうシナリオになっているからですし、倒さないと勇者として遊んでいるプレイヤーがゲームをクリアできませんもんね笑 ですが、魔王は真kwることが確定していても勇者の前に立ちはだかってきます。そんな魔王の姿には確かに、負ける未来が確定していたとしても最後まで抗おうとする強さがあるとも見えますよね。姉を魔王と呼び茶化しながらも、その魔王の姿に重ねてエールを送るユーモアと視点が面白いですよね!

愛を適量

高校教師の慎悟は、以前男子バスケ部の顧問をしていた時に時間もお金も生徒たちに使いすぎてしまい、自己をきっかっけに立場を追われた上に離婚することになってしまいます。しかも、部員たちには煙たがられていました。さらに、離婚後の面会日に娘の佳澄に会う時には甘いものを食べに行っていましたが、佳澄は甘いものが苦手で困っていました。これらのエピソードから、慎悟は自分が適量な愛を相手に与えることができず、いつも過剰になってしまうと感じています。

一緒に生活する中で佳澄に勧められてスキンケアをしてみたり眉毛を整えたりしてみた慎悟ですが、学校に行くと生徒たちに笑われてしまい、その恥ずかしさから帰宅後佳澄に怒りをぶつけます。それに対し、佳澄は以下のような言葉をかけています。

「理由とか原因を他人に紐づけてると、人生がどんどん不自由になる」

そして、身なりを整えることは自己満足であると怒る慎悟に対し、自己満足でいいんだと返しています。

慎悟がこれまで失敗してきたのは誰かのためと思って行動したことでした。しかし、それは一方的な押し付けがましいものであり、受け取り手の反応を見ることはできていませんでした。なので、自分が与えた物を他人が喜んでくれない様子を見て失敗したと感じていました。しかし、もしもこれらの行動を他人のためではなく、自分のためにしていたらどうでしょうか?たとえ相手が喜んでくれていなくても、自分が与えたこと自体に満足していたら失敗ではなかったのではないでしょうか?

他人が満足することに評価基準を置くのではなく、自分の心が満たされることを評価基準にすることが、慎悟には必要だったのではないでしょうか?したがって、慎悟は適量な愛を与えることができていなかったのではなく、与えた愛に対する見返りを求めていたことが問題だったのではないかと思います。

ちなみに、作中で何度か登場したスキンケアをしている場面ですが、歳をとっているから今から始めても意味がないと主張する真治に対し、佳澄はスキンケアを勧めていましたよね。最初は手間を面倒に感じていた真治でしたが手間をかければかけるほど肌が目に見えて変化していくことに気付き、最終的には自主的にスキンケアを行っていました。スキンケアは佳澄と慎悟の親子関係の比喩ではないかと思っています。

ずっと丁寧に肌をケアしていたわけではありませんが、慎悟はスキンケアの効果をすぐに実感します。同様に、慎悟はこれまで佳澄と全く関わらず、親子らしいことをしたこともありませんでした。しかし、佳澄と再会し共に過ごす中で、親が子に、子が親に対する思いが目覚めていきます。

長いブランクがあったことは確かですが、慎悟が娘を大切に思う気持ちはしっかりと佳澄に届いていました。スキンケアと同じように、親子の絆もこれからもう一度つなぎ直すことができるのではないかということを感じさせてくれる描写だなと思いました。

まとめ

いかがでしたか?今回は一穂ミチ先生の「スモールワールズ」についてまとめさせていただきました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

2022年本屋大賞まとめ記事はこちら!

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