こんにちは、きなこぬこです。今回は朝井リョウ先生の「正欲」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
今作は第34回柴田錬三郎賞受賞作、キノベス!2022第2位です。さらに、2022年本屋大賞にノミネートされています!
以下の動画は朝井リョウ先生のキノベス!でのスピーチです!
2023年には主演・新垣結衣さん、稲垣吾郎さんで映画が公開されることが決定しています!
あらすじ
元号の変わり目、新しい時代。世間では性的マイノリティに焦点を当てたドラマがヒットし、多様性が重視されている。子供が不登校になって頭を抱える検事、寝具店で働く女性、男性に対して恐怖心を抱く大学生……様々な立場の人の視点から、変わる時代とそこに生きる人々の内面を描き出す。
以下はネタバレを含みます。
感想
軽率に感想を書くことも憚れる作品ですね。読み終わった後呆然として、もう一度内容を咀嚼して、自分の中に落とし込んで……そうした読書体験から日常に帰って来て見えた景色は、この作品を読む前とは全く違っていました。
まず第一に考えたことは、「生きるのは本当に大変」ということでした。
ここで言う「生きる」は生物的に生命活動を維持することではなく、社会の一員としてはじき出されないように生きていくことです。出る杭は打たれると言いますが、まさにそういう社会ですよね。マイノリティに属することはマジョリティによって形成される社会から排除されてしまうことを恐れながら生きるということです。世の中の大抵のことは多数決で決まります。そうなると、マジョリティの声が大きくなるのは必然ですよね。マジョリティの人が正しいと思ったことは正しく、正しくないと思ったものは排除されてしまいます。
検事である寺井啓喜は、マジョリティから外れた存在を徹底的に排除する思想を持っていました。不登校となった息子、今まで想像もできなかった方法で生計を立てるYouTuber、自分には想像できない性的錯綜を持った犯人が起こした事件—―それらは寺井が考える「ルート」からは大きく逸脱した存在であり、許容できませんでした。その価値観を息子にも妻にも、そして同僚である越川にも押し付けていました。
彼と対照的なのが神戸八重子でしたね。この作品内でいうマジョリティ側に属しながらも、諸星大也との対話を試みました。彼女の真摯な大也の話を聞きたいという想いは、それまで他人を避け続けてきた大也にも響いているように感じました。もし彼女がもう少し早く大也と対話する機会を持つことができていたのなら、結末は変わったのでしょうか……?
桐生夏月は水に対して性欲を抱く自分に嫌悪感を抱き、生き辛さを感じていました。夏月は「多様性」という言葉に対して以下のように考えていました。
多様性とは、都合よく使える美しい言葉ではない。自分の想像の限界を突きつけられる言葉のはずだ。時に吐き気を催し、時に目を瞑りたくなるほど、自分にとって都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。
おじさん同士が恋をするドラマが流行り、同性愛やLGBTQが多様性として挙げられるものの、そこに自分は含まれていないことを感じていますね。マジョリティの人たちにとって想像できる範囲の多様性しか許容されず、そこにも入ることができなかった夏月のようなマイノリティが社会に受け入れられないことを再確認させられて苦しめられています。大也もこの考えに同調するように、世間が判断する性的なものは「限定的」で「画一的」であると話していますね。
マイノリティとして生き辛さを感じてきた彼らですが、佐々木佳道は最終的にマジョリティの人々生き辛さを感じているかもしれないことに気付きます。
まともって、不安なんだ。佳道は思う。正解の中にいるって、怖いんだ。この世なんてわからないことだらけだ。だけど、まとも側の岸に居続けるには、わからないことを明かしてはならない。
マジョリティでいるためには周りの人と同じであることが求められ、少しでも逸れるとマイノリティになってしまいます。自分が常にマジョリティであることを確認し続け、周りに合わせる努力を続けなければいけません。いつだって、誰だって突然マイノリティになる可能性があり、そのことに対して皆恐怖や不安を抱えていることに気付いたのです。
ここまでマイノリティに属する人々の抱える苦しさについて描かれていましたが、ここでこの作品を読んでいる多数派に属する読者が日々感じている生き辛さも引きずり出されてしまいます。何となく他人事のように読み進めていた私たちが、今度は登場人物から「生き辛くて大変そうだね」と言われてしまうのです。
正直、自分の想像の外にある思考や価値観を一足飛びに理解することは不可能だと思います。作中で水に性欲を抱く人たちが感じていることを私は分かりませんし、そういう性的志向が存在することすら知らなかったほどに無知です。しかし、寺井のように自分の価値観では理解できないから排除するのではなく、神戸のように対話をすることで、そういう志向を持っている人がいること、苦しんでいることを知るということはできます。差別や排除は無知から生まれるものであり、知る人が増えることで、そういう志向を持つ人たちも含めた多様性が存在していることが当たり前になる世界に変わっていったら良いな、と思いました。
まとめ
いかがでしたか?今回は朝井リョウ先生の「正欲」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
コメント
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