【「いまさら翼といわれても」米澤穂信先生(ネタバレ注意)】えるがアイデンティティを見失う?あらすじ・感想・考察をまとめてみた!古典部シリーズ6作目!

ミステリー(国内)

こんにちは、きなこぬこです。

今回は米澤穂信先生の「いまさら翼といわれても」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。

今作は古典部シリーズ6作目ですね!2017年の週刊文集ミステリーベスト10で第8位にランクインしています!

あらすじ

箱の中の欠落

その日行われた生徒会長選挙で生徒数よりも票数が多いという奇妙な出来事が起こり、後輩の1人が責任を押し付けられたことで里志から相談を受けた奉太郎。選挙のどこで不正が行われたかを考えながら、里志と共に夜の町を散歩する。

鏡には映らない

奉太郎たちが通っていた中学校で卒業制作として鏡の縁を学年全員で掘ることになったが、奉太郎が提出した木片はあまりにもデザインを無視して彫られた手抜きであり、デザインを担当した子が泣いたことで学内で奉太郎は責められて孤立する。この経緯を知っていたため奉太郎を毛嫌いしていた摩耶花であったが、同じ部で活動する内に奉太郎がこの時とった行動に違和感を覚え、真相を知るために調査する。

連峰は晴れているか

中学時代の教師がヘリコプターが好きだったことを思い出した奉太郎だが、同じ教師の授業を受けていたはずの摩耶花や里志に否定される。入学してばかりの頃のその教師の言動からヘリコプターが好きだと思い込んでいた奉太郎だったが、その行動には好き以外の何か他の意味があったのではないかと考え始める。

わたしたちの伝説の一冊

一年時の文化祭以前から派閥争いが続いていた摩耶花が所属する漫研だったが、ついにその溝が埋まらない段階まで来ていた。争いに巻き込まれることを避けるために一歩引いた姿勢でいた摩耶花だったが、部内で極秘に同人誌を作成するから参加しないかと持ち掛けられたため承諾する。しかし、その計画が他の派閥にバレてしまい、同人誌を発行できなければ部活動を辞めるように言われてしまう。同人誌に載せる漫画のプロットをノートに作成する摩耶花だったが、少し目を離した隙に何者かにノートを盗まれてしまう。

長い休日

いつも無気力な奉太郎。しかしその日は朝から調子が良かった。ごはんを作り家事をこなした後、天気が良いので散歩へと出かける。偶然出向いた荒楠神社でえると遭い彼女の用事を手伝う傍ら、「やらなくてもいいことならやらない」と考えるきっかけとなった出来事について話し始める。

いまさら翼といわれても

合唱祭の当日、参加するはずのえるが姿を見せないことで心配した摩耶花から奉太郎の元に連絡があった。えるを探すために文化会館に出向き、摩耶花と共にえるを探す奉太郎だが、一向にその足取りは掴めない。里志の協力で路線図を手に入れた奉太郎は、あることに気付く。

以下はネタバレを含みます。

感想

今作では登場人物たちの過去の出来事が出てきたのが印象的でした!基本的に古典部シリーズは高校生活の中で遭遇した事件を解決するという流れなのでこれまであまり彼らの過去に起こった事件について描かれていなかったように感じていたのですが、今作では奉太郎が「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」という信条を掲げるきっかけとなった出来事(長い休日)や、奉太郎たちの中学校で起こった事件(鏡には映らない)などが描かれていましたね!

さらに、高校二年生になったことでそれぞれが自分の将来に対して何かしらのビジョンを抱くようになった様子が見られ、彼らの成長を感じました!大人と子どもの中間である高校生として、将来の自分をもい描いている姿は、これまで以上に彼らの人生が未来へと続いていくことを感じさせられました。

以上のことから、今作では主要登場人物である古典部員たちにも過去や将来という現在以外の時間が存在するこということが描かれることでキャラクターに深みが増したように思いました!

それにしても、奉太郎は面倒くさがりだから無気力なのかと思っていたら、想像以上にしっかりとした理由を持って無気力だったという……彼は何だかんだでとても優しい人ですもんね。えるの言う通り、無気力で不親切と見せかけて、小学生時代と変わらず結局自分から苦労を背負っているようにも見えます笑 いつか奉太郎が不親切である「フリ」を辞めることができる時が来るといいですね!

考察

今回は表題作である「いまさら翼といわれれも」で明かされた千反田えるの苦悩と、その心情について考えていきたいと思います。

これまでも千反田家の跡取りとして責任を持った振る舞いを見せてきたえる。特に「遠回りする雛」では、非常事態が起こり困っている大人たちに的確に指示を出し、お役目をこなしていましたね。今回の千反田える失踪事件は、そんな彼女が突然家を継がなくてよいと言われたことに端を発しています。

彼女は家のことを考えた上で将来の進路を検討し、地域の人たちと接し、お家の仕事をこなしてきました。高校時代よりも前のえるのことは分かりませんが、少なくとも高校に入学してきた時点からえるはずっと千反田家を継ぐことを受け入れて生きていました

今回えるが家を継がなくても良いと言われてしまったことで、これまで千反田家の跡取りとして考えてきた将来のビジョンも失われてしまいました。非常に狭い世界で生きていかなければいけなかったはずが、突然自由を与えられたのです。もちろん、すぐに受け入れることができるわけがありません。

合唱団に参加するのは、もしかしたら跡取りではない自分が周囲の人たちに跡取りのように扱われるのが嫌だったのかもしれません(叔母も知らなかった様子なので他の方も跡継ぎでなくなったことは知らないでしょう)。もしくは、跡取りでなくなったと伝えた後の周囲の自分を見る目の変化を恐れたのかもしれません。いずれにしても、千反田家の跡取りという合唱団に参加するのは、もしかしたら跡取りではない自分が周囲の人たちに跡取りのように扱われるのが嫌だったのかもしれません(叔母も知らなかった様子なので他の方も跡継ぎでなくなったことは知らないでしょう)。もしくは、跡取りでなくなったと伝えた後の周囲の自分を見る目の変化を恐れたのかもしれません。いずれにしても、千反田えるのアイデンティティであった千反田家の跡取りという立場は突然奪われてしまいました。跡取りではない自分を誰よりも受け入れることができていないのかもしれません。

そんな彼女を迎えに現れた奉太郎は、えるが現れずに困っている合唱団の元に「行け」と言うのではなく、「行けそうか?」と問うたのです。奉太郎は責任を取るように伝えるのではなく、えるの今感じているつらさを慮って、彼女の意思を尊重したいことを示したのです。この言葉から、奉太郎がえるに対して”千反田家の跡取り”ではなく古典部の仲間の”千反田える”と接していることが分かりますよね。どうかえるにも伝わってくれていると良いなと思います。

そして、自由になったえるが続編で自分らしい生き方を見つけられることを心から願っています。

まとめ

いかがでしたか?今回は米澤穂信先生の「いまさら翼といわれても」についてまとめさせていただきました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

古典部シリーズの他の作品はこちら!

2作目 「愚者のエンドロール」

3作目 「クドリャフカの順番」

4作目 「遠回りする雛」

5作目 「ふたりの距離の概算」

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