【「最後の証人」柚月裕子先生(ネタバレ注意)】夫妻の復讐は果たされた?あらすじ・感想・考察をまとめてみた!

ミステリー(国内)

こんにちは、きなこぬこです。

今回は柚月裕子先生の「最後の証人」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。

今作は佐方貞夫シリーズ1作目ですね!2015年には佐方貞夫役:上川隆也さんドラマ化されています!

あらすじ

7年前に起こった交通事故でひとり息子を亡くした高瀬夫妻。一緒にいた息子の友人の証言から事故当時運転手は飲酒していたはずが、何故か不起訴となり息子が信号無視をしたとして処理されてしまう。息子を殺したにも関わらずのうのうと生きている犯人の島津に対し、二人は全てを賭けた復讐を誓う。こうして起こった事件の裁判では夫妻の本来の目的を悟られることのないまま、検察側の優勢で進んでいく。しかし、弁護士の佐方貞夫は裁判の行方を根底から覆すような切り札を隠していた。

以下はネタバレを含みます。

感想

今作は検事をやめて弁護士として活躍する佐方貞夫が、自身の正義に則って裁判に臨み、被告人を弁護することだけではなく真相を明らかにするために奔走するお話しです。誰がどう見ても有罪にしか見えなかった本作の被告人の島津は佐方の尽力により無事無罪を勝ち取りますが、隠し続けてきた過去の過ちも暴かれてしまいます。後半まで被告人が一体誰なのかを隠しながら、高瀬夫妻が計画を実行していく過程と裁判の経過が交互に描写されていくことで、この裁判で裁かれている罪は一体何なのかを後半まで読者に気付かれにくいようにしている構成が面白いですね!プロローグの男女のやり取りは、女性側(高瀬妻)が被告人であるというミスリードとして効果的に機能していましたね!

高瀬夫妻の一人息子を飲酒運転で轢き殺しておきながら、反省する様子もなくのうのうと生きている島津の姿には読者も腹が立ったことでしょう……笑

読者としては高瀬夫妻の、島津に罪を負わせるために何度も二人で話し合って、全てを懸ける覚悟で臨んだ計画の一部始終を知っているだけに、佐方が全てを暴いてしまった時にはやりきれない想いになってしまいましたが……佐方は過去に同僚が罪を犯したにも関わらず司法で裁かれず、組織ぐるみで罪を隠して左遷のみで終わらせた事件について、当時の上司だった筒井に対し「罪は代替できるものじゃない。その人間が犯した罪で裁かれなければ意味がない」と言っていました。彼のこの正義は今作で裁判のシーンが描かれていた島津の事件でも一貫しており、高瀬夫妻の境遇を知りその強い想いを汲み取りながらも、島津が無実の罪で裁かれることを阻止していましたね。

高瀬夫妻の計画は最後の最後で佐方によって暴かれ、島津を殺人の罪で有罪にすることは叶いませんでした。この後高瀬光治や島津がどうなったのかは分かりません。しかし、今作の裁判で真実が白日の下に晒されたことで島津の高瀬夫妻の息子を飲酒運転で殺した罪が全うに裁かれ、罪に準じた制裁が与えられることを祈ってしまいますね。

対して、佐方と争う検事として登場した真生は真実を見つけ出すことはできませんでしたが、彼女も彼女なりの正義を持って戦っていたことが描かれています。「どのような理由であれ、罪を犯した人間は裁かれるべきだ」という彼女の正義はきっと間違いではないものの、今作のように無実の人を有罪にしてしまう危うさも孕んでいました。今後も登場するのであれば、是非彼女の検事としての成長も見てみたいと思いました!

考察

今作でとても印象的だったのは高瀬光治と美津子の絆でしたね。二人が立てた計画は見破られ、真実を話した方が罪が軽くなる場面で光治は佐方の推測を否定しました。その胸の中には同志として命を賭けて戦った美津子の姿が。夫婦としてだけではなく、美津子の死後もそれ以上の強い絆で結ばれている二人の関係を印象づける素敵なシーンでした

以下は個人的な推測なのですが、佐方の登場によって完全に失敗に終わったかに見える高瀬夫妻の島津への復讐ですが、実は裁判の結果島津が無罪になっても有罪になっても、ある程度二人の目的は達成されていたのではないかと思っています

上記のように考えるのは、二人の目的は島津を殺すことではなかったということが明らかであるためです。もし島津を殺害することで復讐を果たしたいのであれば、ホテルで二人きりになった時にナイフを使用するのではなく毒物を使用したり隙をついて絞殺したり……とにかく別の手段があったのではないかと思うのです。そのため、二人にとっての復讐は島津を殺すこと自体ではなかったと考えられます。

では、何を目的に復讐を行ったのでしょうか?二人にとっての復讐の目標は以下の点だったのではないかと思っています。

  1. 島津を殺人犯に仕立て上げ、殺人犯として法的に罪を償わせること
  2. 息子を殺した罪を自覚させ、反省させること

1.について、美津子を殺した罪で殺人犯に仕立て上げようとしていたものの、佐方に真相を暴かれてしまいます。しかし、過去の島津が犯した殺人も同時に暴かれており、証人もいるため、今後飲酒運転での裁判では殺人犯として有罪になる可能性が高く、高瀬夫妻の本来の計画とは異なるものの、島津に殺人犯としての罪を償わせることに成功しそうですね!

2.については、プロローグのシーンでホテルの一室で美津子が島津に襲い掛かる際に息子のことを口にしていることから、今回の事件が自身の過去の殺人が発端になっていたことは島津自身は気が付いていたはずです。過去の過ちによって無罪の罪で有罪へと追い詰められたことから、彼は高瀬夫妻の息子を轢いたことを後悔せずにはいられなかったでしょう。そのせいで有罪になっていたら、尚更後悔していたはずです。最終的には過去の事件も再調査されて裁かれることになったので、彼は飲酒運転で人を殺した罪今までのように隠すこともできず一生背負って生きていくことになるでしょう。

以上のことから、高瀬夫妻が命を懸けて臨んだ計画は失敗に終わったものの、二人の目的は達成されたのではないかと個人的には思っています。

とはいえ、そのために命を捨てた美津子の覚悟と、美津子が命を捨てるのを見守る覚悟をした光治の胸中を思うとやりきれませんね……

まとめ

いかがでしたか?今回は柚月裕子先生の「最後の証人」についてまとめさせていただきました。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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