こんにちは、きなこぬこです。
今回は澤村伊智先生の「予言の島」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
「再読率200%」と書かれた帯を見て、ひねくれた私は絶対に初読で全てを理解そてやるぞ!と思い臨んだのですが……これは2回読まないと伏線を拾いきるのは無理でした笑
ちなみに、比嘉姉妹は全然出てこないですよ!笑
あらすじ
20年前、一世を風靡した霊能者の宇津木幽子が瀬戸内海の何もない島、霧久井島に起こることを予言して息を引き取った。天宮淳は幼馴染の春夫と宗作と共に予言が指し示す日付に島を訪れる。しかし、予約していた旅館に怨霊が来るという理由で突然宿泊を断られてしまい、急遽他の宿に泊まることになる。霊能力者を語る奇妙な女が警告を繰り返す中、夜が明けると春夫の姿が消えていた。
以下はネタバレを含みます。
感想
え、嘘やろっ!?ってオチでしたね笑
種明かしの後にかなり詳細に今までの矛盾点を解説してくれてはいたものの、予想外の結末でしたね!
確かに沙千花が死の直前に淳の名前を繰り返し呼んだことには違和感はありました。しかし、そこまでは全く違和感なく物語が進行していたので、まさか典型的な叙述トリックが隠れてるなんて思いもしませんでした……笑
遠藤親子があまりにも異常だったので、その陰に隠れてたんですね。
あと、澤村先生は比嘉姉妹シリーズのイメージが強く、今回も「ミステリーっぽいホラーだろうな」と思って読み始めたことがそもそもの間違いでした。実際は真逆の「ホラーっぽいミステリー」でした。しかも最終的にホラー要素は跡形もなく消え、ある意味ホラーの淳の母の異常性だけが残りました笑
読み始めた時点でまんまと嵌められていたのですね……悔しい!
沙千花が淳に話したように、人は知らず知らずのうちに「呪い」にかけられて生きているのでしょう。沙千花や淳ほど雁字搦めではないにしても、自分の人生に少なからず影響を与えてくる呪いを背負い込んでいるのかもしれません。まずは自分にかけられている呪いに気づくいて、それがいらないものであるならば、淳のように断ち切る勇気を持つことができたらなぁと思いました。
呪いに関しては考察でも触れていきますね!
考察
霧久井島の本当の呪いは?
この物語で呪いより何より不穏だったのは、島民たちの異常さなのではないでしょうか?最初は良い人のように見えた駐在の橘ですら、産業廃棄物の存在が明らかになることで「島民のみんなに迷惑がかかるから」とかいう意味不明な理由で春夫を撲殺してますからね……笑 島民のことを話すときに当たり前のように麻生夫婦のことを含めていなかったことに関しても、麻生が思っている以上に麻生夫婦島民たちに受け入れられていなかったことが分かって気分が悪くなりました。
私も因習や土俗に絡んだお話は大好きなのですが、それをうまく利用して産業廃棄物を隠していた島民たちには驚きです。ここまでして産業廃棄物と、命に関わる危険と隣合わせで生きていくのは、どんな心境なのでしょうね。
島民たちは、産業廃棄物と共に生きていくことを自分たちに言い聞かせ、島に縛り付けられています。島が人々を縛り付けていることこそが、本当の霧久井島の呪いなのではないでしょうか?
遠藤親子の母、晶子は、比呂について「あの人、島から出られなくなったのね。島以外のことを考えられなくなたのね」と涙を流しています。(個人的には「いや、自分が言うんかい」と思いましたけどね笑)
呪いを信じ続け、島民たちに誤解を解いてもらうこともできず、島を出るという選択肢を考えることができなくなるまで追い詰められた状況で命を絶ってしまった比呂は、言わずもがなこの島の呪いの被害者です。
しかし、比呂と同様にこの島の外に出るという選択肢を考えることもできないまま、島で朽ち果てていく老人たちも呪いの被害者なのですね。
老人たちは客観的に見て異常であることに違いないのですが、島に呪われてしまったかわいそうな人たちでもあるんですね……
人と人を縛る呪い
紗千香の呪い、淳の呪い
この物語のキーマンである沙千花は、作中最も安心して頼れる存在でしたね!そんな沙千花は、淳に対して「人と人とは言葉で縛られて呪われている」ということを伝えます。この考えが物語の主軸になっていきます。
そんな彼女は、最期の時、淳に名前を繰り返し呼んでいました。
この場面、とても違和感があったんですよね。名前を呼ばれた淳が返事をしたにも関わらず、「わたしは淳さんって、い、言ったの」と沙千花は言っています。そして、「淳さんは……今のうちに、生きてる、うちに、ね」と続け、息を引き取りました。
思えば、霊子の「それだけすごい守護霊に守られてるんやったら」の言葉も気になっていましたし、両手が塞がっている状態のはずの淳が落としたものを普通に拾っている場面にも違和感はありました。ですが、何となくスルーしてしまっていたんですよね。
最終的に、淳は一人ではなく、その陰に隠れて透明人間のようになっていた淳の母がずっとピッタリとくっついていたという衝撃的なオチで、丁寧に各場面の違和感を解説してくれたわけではあるのですが……ともかく、祖母である宇津木幽子に縛られ、予言を確認するために人生を捧げてしまった沙千花は、淳に母からの束縛という呪いを気づかせ、彼が母から解放されることを願ったのでした。
結果として、淳は母との距離感が異常であることに気づき、母と離れる道を選ぶことができたのでした。
この沙千花の言葉や願いも、沙千花が言うところの「呪い」なのでしょう。最後の場面で淳は「約束を――遺言を守るんです」と話し、沙千花が身に着けていた宇津木幽子の数珠を引きちぎり海にばらまきます。
この数珠を引きちぎる動作は、淳と淳の母の呪いを破ったことのメタファーなのでしょう。ですが、さらには、生前沙千花が縛られ続けた祖母の呪いから、祖母の数珠をちぎることで解放したのではないでしょうか。
第三者としての責任
今まで紹介してきた通り、この物語の中では様々な形の呪いが描かれています。沙千花の呪い、淳の呪い、比呂の呪い、そして島民たちにかけられた霧久井島の呪い……遠藤親子も異常な距離感なので、お互い呪い合っているといえるでしょうね。
ここで取り上げたいのは、自分で呪いに気づいた沙千花のことではなく、がっつり呪われていたにも関わらず呪いを絶つことのできた宗作のことです。
社畜となり、上司からの人間性を否定する言葉に洗脳されていた宗作ですが、彼はすんでのところで自殺に失敗し、思いやりのある幼馴染たちと共に旅行に来ます。最初の頃は何かの拍子に上司からの洗脳を思い出しパニックのようになっていた宗作でしたが、徐々に自分らしさを取り戻し、ゆっくりと呪いが解かれたようにみえました。
宗作と他の呪われた人たちの違いは何だったのでしょう?それは第三者による介入の有無です。
父に命を助けられて仕事を辞めることができましたし、本来の自分を尊重してくれる幼馴染たちの存在が、宗作にはありました。しかし、他の人たちには誰もその異常性を指摘してくれる人間がいなかったのです。だから、呪われていることそのものに気づくことができませんでした。淳は沙千花に指摘されることで、やっと自分の異常さに気づくことができました。
宗作が呪いから救われたことと比較するからこそ、呪いを解くことができずにズルズル来てしまったからこそ迎えた悲劇的な結末が際立つのでしょう。
何だかんだ、この物語で一番運が良かった人間は宗作なのかもしれませんね笑
まとめ
いかがでしたか?
今回は澤村伊智先生の「予言の島」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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