こんにちは、きなこぬこです。
今回は知念実希人先生の「真夜中のマリオネット」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
あらすじ
被害者をバラバラにする連続殺人鬼、「真夜中の解体者」。婚約者を3番目の被害者として奪われた救急医の小松秋穂の元に、美しい少年、石田涼介が重体で搬送されてきた。秋穂の処置により一命をとりとめた涼介だが、彼は警察から「真夜中の殺人鬼」の容疑者とみられていた。秋穂は救命後にその事実を知り、担当医となって涼介の点滴に劇薬を注入して婚約者の仇を打とうと試みるが、涼介から自己の潔白を主張されて戸惑う。涼介が本当に無実なのか、そして無実であるならば本物の「真夜中の解体者」を見つけ出して仇を打つため、秋穂は涼介と協力して事件も調査を行っていく。
以下はネタバレを含みます。
感想
知念先生の作品はハッピーエンドのイメージがありますが、今作は珍しくバッドエンドです。ミステリーとしては個人的にはアンフェアな方かなと思っています笑 正直エピローグまで辿り着かないとなかなか涼介が黒か白かを判断するため重要な情報が開示されないんですよね……美濃部を問い詰める場面で涼介が秋穂に対して「四人目の僕の大切な人」と言っていたのに、その後の空港で涼介を見送る場面では「三人の特別な人」と言っていたことで、秋穂と同じように初めて涼介の言動に違和感を覚えました。後から読み返していくと辻褄が合っていくので、読者も秋穂と同じ視点に立って涼介の都合の良いように――マリオネットのように操られ、最後には洗脳が解ける過程を楽しむ作品なのかなと感じました!
今作のポイントは、一つの事件の犯人が全ての事件の犯人とは限らないということですね!「連続殺人事件」という言葉と「真夜中の解体者」という犯人に対する呼称のせいで全ての事件の犯人が同一であるという前提で考えてしまいがちですが、それはただの思い込みであるということを思い知らされました……笑
確かに「真夜中の解体者」こと涼介は、自分の執着する対象のことは絶対に殺害していませんし、殺してしまったら彼が殺人を行う目的が果たせなくなってしまいます(この目的については考察で詳しく説明していきます!)。このことを考えると、苦労して自分のマリオネットとして作り上げた雪江を殺害した犯人のことを見つけたいと思っていたの気持ちは涼介の本心だったのかもしれませんね……また、秋穂に殺されそうになったり警察に捕まりそうになったりすることに対しては諦めや受容の態度を示していた様子なので、自分が犯した罪のせいで報いを受けることに対しては仕方がないと感じているのではないかと思いますが、雪江を殺した偽の罪を被せられることだけは許せなかったのかもしれませんね。
考察
「真夜中の解体者」の犯人が涼介であることが作品の最後に明かされましたね!殺人はあくまで過程であり目的ではないのではないかと考え、彼の犯行にある一定のルールの根底には彼の生い立ちからの影響や異常性があるのではないかと考えたので、今回は「真夜中の解体者」の犯行方法と心理について考察していきます!
まず、涼介の生い立ちから振り返っていきましょう。彼は弟の死について義父から疑いをかけられ、そのことに絶望した実母は自らの手首を裁断機で切断して自殺してしまいます。この時のことを涼介は以下のように語っています。
ママが死んだあの日、僕の中でなにかが弾けたんです。体の奥の奥にあるなにかが、砕け散る音が聞こえてきました。
私はこの文章を読んだとき、涼介の中にある理性や母へ向けた信頼など、涼介の持っていた「体の奥の奥にあるなにか」が砕け散ってしまったのだと解釈しました。……しかし、読み進めていくとその解釈が間違っていたことに気付きます。
エピローグで涼介はこの母が自殺してしまった出来事について、別の発言をしています。
魂が腐り落ちそうなほどに絶望した人間は綺麗じゃないですか……この世のなによりも綺麗。
(中略)
『本当のこと』を知ったとき、ママの魂が砕けて僕だけの人形になったんです。大切な僕だけの人形。
ここで言う『本当のこと』とは、おそらく涼介が義父が疑っている通りに弟を殺害したことなのだと思います。涼介の母にとって弟はかけがえのない存在であり、それを奪うことで母の心を壊し、自殺に追い込んでいたことが明らかになります。以上のことから、先に紹介した涼介の言葉は自分の心が砕け散ったということを意味していたのではなく、母の心が砕け散ってしまったことを意味していたことが分かりますね!
母の喪失体験がPTSD(心的外傷性ストレス障害)となってしまい、この体験を再演し続けているのではないかと思います。涼介は自分にとって特別な人のかけがいのない存在を殺し、そのことを特別な人に伝えることで絶望させて心を壊して自分のものにしてしまうという行動を雪江、倉敷、そして秋穂に行っていきますよね。以上のことから、彼らの大切な人の命を奪うことは自分にとって特別な人を手に入れるための手段でしかないのです。
また、母の自殺の方法も涼介の犯行方法に影響を与えることになります。母は自ら手首を裁断機で切り落としていますが、涼介は母の手首から先についている手で「いつも優しく僕を撫でてくれた」と話しています。つまり、母の手首は涼介にとって母と自分の絆の証だったのではないかと思います。
「真夜中の解体者」としての涼介は、自分が固執する人物とその人が大切にしている人物の絆を示す身体の部位を切り落として持ち帰っています。このことから、母の手首が裁断機で切り落とされたことで母と自分の絆は切れてしまったと考えていつため、被害者と固執している人物との絆を断つという目的で持ち帰っているのではないかと考えました。
天性のジゴロである涼介はその人並外れた容姿で苦労してきましたが、彼の外見を抜きにして無条件に心配してくれる人物も少なからずいました。それは、実の親である母、状況を心配してお弁当を持ってきてくれていた雪江、生来を心配してくれた倉敷、そして重体になった涼介を無条件に助けてくれた医師の秋穂。少なからず涼介に情けをかけてしまったことが彼らの共通点でした。涼介は、彼らであれば外見を見て寄ってくる人たちとは違って自分を大切にしてくれると思って固執し、彼らの大切な人との絆を奪い、自分のものにすることによって自分との絆を築こうとしたのかもしれないなと思いました。
以上のことから、「真夜中の解体者」と呼ばれる涼介の犯行方法には涼介の歪んだ性癖や価値観が反映されており、全て意味のあるものになっていました!涼介は、誰かからの無償の愛を欲していたのかもしれませんね……
まとめ
いかがでしたか?今回は知念実希人先生の「真夜中のマリオネット」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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