こんにちは、きなこぬこです。
今回は米澤穂信先生の「満願」を読んだ感想についてまとめていきます。
第27回山本周五郎賞受賞、2015年「このミステリーがすごい! 」第1位、2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位、2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位となっています!
2019年にはNHKで「万灯」「夜警」「満願」がドラマ化されています!
あらすじ
夜警
警察学校を出たばかりの新人警察官の川藤は犯人を取り押さえる際に負傷し還らぬ人となった。彼は犯人に対し発砲していたが正当防衛と判断され、大々的に葬儀が執り行われていた。上司だった柳岡巡査部長は川藤が警察官としての資質を欠いていたことを思い起こしながら、川藤が殉職した日のことを回想する。
死人宿
巷で死人宿と呼ばれ自殺者が集まる旅館に勤めているかつての恋人の佐和子を追って旅館を訪れた主人公は、温泉の脱衣所にあった遺書について佐和子から相談を受ける。2人は遺書を落としたのが誰なのか突き止めるため、旅館に宿泊している他の客の様子を観察する。
柘榴
生活能力のない旦那との離婚を決め、2人の娘の親権を裁判で争っていたさおりは、自身が親権を獲得できると確信していた。父親のことも母親のことも好きな 娘の夕子と月子はある計画を実行に移す。
万灯
日本企業に勤めながら海外での資源開発の巨大プロジェクトを一任された主人公は、バングラデシュでの天然ガスの獲得に向けてとある地方の村との交渉を行うがうまく進まず難航する。しかし、村の権力者たちの間では意見の対立が起こっており、彼らの抗争に巻き込まれてしまう。
関守
伊豆の桂谷峠の急カーブで事故が多発しているというネタを先輩からもらったライターの主人公は、現地の取材に出かけて途中の小さなドライブインに立ち寄る。そこを切り盛りしている老婆の話から、事故の被害者たちは全員このドライブインに立ち寄っていたことに気付く。
満願
司法試験の合格に向けて勉強の日々を送っていた主人公は、とある事情から妙子という美しい女性とその夫の家に部屋を借りて暮らしていた。司法試験合格までの辛い日々を優しく支えてくれた妙子だが……
以下はネタバレを含みます。
感想
全編通して事件のきっかけとなった動機を非常に重視した短編集になっているように感じました!
個人的には関守が好みでした。あまりいいラスト終わりではありませんが、ホラー映画のような雰囲気と後半にかけて物語が加速して不安を掻き立てられていく感じがとてもワクワクしました!
他の作品ももちろんそれぞれ面白く、短編集なのでひとつひとつの話は短くて読みやすいのですが、起承転結や登場人物たちの掘り下げがしっかりしている、非常に内容の濃いミステリーでした。忘れっぽい私としてはミステリーは長編よりも短編の方が好きなのですが、短い文章の中にトリックや動機、事件の背景にあるものや犯人・被害者の人間性などを詰め込むのはとても難しいのではないのかなと思っています。短編ミステリー読みやすいものの、面白くてもどこか物足りないものを感じてしまうことが多いように思います。ここまで全ての短編の密度が高い短編集はなかなかないのではないでしょうか!
それぞれの物語の登場人物たちは様々な願いを胸に抱えています。そしてその願いを成就させるためには他人の尊厳を貶めることも、人を殺すことも厭わないという姿勢を貫いています。人は自分の願いを叶えるためならどこまでも非道な行動を選択する可能性があるというのを思い知らされますね……
夜警
入職してからの新人の川藤巡査の仕事ぶりを回想することで、いかに警察に向いていないかを読者に見せていましたね!
川藤は自分のミスを隠して誤魔化そうとする所がありました。それが結果として致命的な事態を招いてしまいます。どんな仕事でもそうだと思いますが、ミスはすぐに報告すべきですよね……ミスを隠すことにより更に事態が悪化したり、他の人に迷惑をかけてしまうことが多々あります。
そもそも川藤の場合、銃が好きで扱いたくて警察になったというのは警察という職業を選ぶのに際していかがなものかと思ってしまいます。しかも発砲してしまい、隠すために人が死ぬ事件を起こす手引きをするなんて……こんな警察はフィクションにしかいないことを信じるしかありませんね笑
死人宿
佐和子は本当に自殺を止めたかった訳ではなく、主人公の事件を取り組む姿勢をみたかったのでしょうね。
自殺を止めたい人間が自殺者の集う宿で勤め続けることなんてありえないかと思いますしね。たまたま見つけた遺書を話のネタに持ってきただけという可能性もありますが笑
柘榴
可憐な少女でありながらも女としての闇を存分に抱えた夕子が、娘としてではなく1人の女として父親へ特別な感情を抱いています。
また、母や妹などの父親の周囲にいる女を蹴落とすことも忘れません。欲しいものを手に入れるためなら、どんなことでもするという彼女の歪んだ感情が分かります。
万灯
他企業の営業マンと共犯し村の権力者の争いに協力して殺人を犯したものの、共犯者が信用できない人間だったため、日本まで追いかけて殺害します。
今作でキーになるのが感染症ですよね。共犯者と共に村で感染症をもらってきてしまい、殺害した共犯者は感染症に罹患していることが割れています。自身も罹患していることを名乗り出てしまうと、感染ルートを辿って共犯者と自身の村で行った犯罪、そして共犯者を殺したことが明らかになってしまうため、主人公は医療機関を受診することができず病に苦しんでいます。殺人を犯したという罪を裁かれることと自分の命を天秤にかけていますね……
一見完全犯罪になるかに見えた一連の殺人が感染症の存在により繋がってしまうという、主人公にとっては不運としか言いようのない事態ですよね笑
関守
心霊現象が引き起していると思われていた一連の事故は、全て老婆の意図的な殺人であったことが明らかになります。幽霊なんかよりよっぽど人間の方が怖いというお話ですね笑
中盤まで調子良く話してくれていた老婆が、外に煙草を吸いに行って店の前の地蔵を主人公が認識した辺りからおかしくなっていく様子がゾクゾクしました。
老婆の動機は全て娘を守るためであり、そして娘を守るためには地蔵の首がもげていることを隠すことが必要で、全ての事故に見せかけられた殺人は最初の殺人を隠すためのものであったことがわかります。娘を守るため、孫を守るためとはいえ、老婆は大量の殺人を犯していました。
満願
突発的な殺人ではなく、用意周到に計画して人を殺していたことがわかります。
彼女の守りたかったものは家宝の掛け軸と、自身の家系の誇りでした。妙子は余裕のない生活の中でも苦学生である主人公に優しく世話を焼くことで、自身の尊厳を守っていたのでした。
優しくしてくれた妙子でしたが、結局のところ主人公のことを大切に思ったいたのではなく、苦しい状況であっても主人公に情けをかけることができる自分が好きだったのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?今回は米澤穂信先生の「満願」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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