こんにちは、きなこぬこです。
今回は西加奈子先生の「夜が明ける」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
今作は2022年本屋大賞にノミネートされていました!
あらすじ
フィンランドの映画俳優マケライネンに似ているアキと出会った主人公は、高校卒業前に父親を亡くし、経済的に辛い状況に陥るも自身を奮い立たせながら日々を生きる。一方のアキも幼少期から母親からの虐待を受け貧困に苦しみながらも、マケライネンと同じように俳優になるために劇団に入る。懸命に生きようとする2人の男を取り巻く闇を赤裸々に暴きながら、彼らの友情を描き出す。
以下はネタバレを含みます。
感想
どんどん追い詰められていくアキと主人公の様子にハラハラしながら読み進めていました。2人が共に過ごした時間は非常に短期間ではありますが、お互いの人生に影響を与えて生きていく様子には、離れていても2人が繋がっていることを感じました。
2人が助けを求めることができずに身動きが取れなくなっていく様子を見て、私も周りの人に助けを求めることができなくなった時のことを思い出しました……本当に困った時、誰かに助けを求めるという考えが思い浮かばなくなってしまうことがあるんですよね。結局どうすることもできなくなって、主人公と同じように精神的に追い詰められてしまいました。私も昔から負けず嫌いで、主人公の漠然とした「負けたくない」という気持ちには非常に共感できました。しかし、「負けたくない」と思っていても、自力ではどうすることもできなくなるくらい追い詰められることもあるということに学生時代に気付くことができました。
「夜が明ける」は実直に努力した人が報われるという物語ではなかったですね。現実世界では努力が報われるとは限らないことを暴き出しています。主人公はアキに対して以下のように考えていました。
俺はアキに何かを託していたのかもしれない。
(中略)アキのような人間が、いや、アキのような人間こそが認められる社会であるべきだという、強い想いがあった。
主人公は実直さや素直さ、ひたむきさを持ったアキを見て、努力した人間が報われる社会であると信じたがっていたのでしょう。現実は理不尽で、どれだけ頑張っても報われない……それを知った主人公は打ちのめされるものの、森の「苦しかったら助けを求めろ」という言葉に救われます。主人公がこの先どうなるのか、カメラを借りて何を撮ろうとしているのかは分かりませんが、長い夜を向けて朝が来るように、主人公がこれからもう一度歩き出すことが出来るのではないかと思わせてくれるラストでホッとしました。
考察
そもそも主人公が異常な程に執着していた勝ち負けとは何だったのでしょう?
森はラストで主人公に以下のように語りかけています。
世間ってそもそも、戦いを挑むものじゃないですよね。もちろんその逆もそうで、世間が私たち個人に戦いを挑むなんておかしいし、絶対にあってはならない。もしそうなら、もしそう思うなら、誰が、何がそうさせるの?
確かに、言われてみると何に対して勝負をしかけているのか不明なんですよね。漠然として「負けない」と思っているものの、その「負けない」相手は誰なのか分かっていません。
終始森のことを嫌っていた主人公は、自分が先に理不尽に対して声をあげたから嫌いなのではないかと森に指摘されていました。この発言のおかげで、主人公が入院した際にお見舞いに来た母親に対して「憎む」という感情を抱いた理由が理解できます。
主人公は母と二人きりで経済的に苦しい生活を乗り越えてきました。しかし、母は折り合いの悪かった実家に頼ることを決め、主人公に仕送りは不要であると伝えてきたのです。これまで必死に頑張ってきた戦友だったはずの母が、実家に助けを求めた上に、主人公からの支援を断ったのです。母は、主人公よりも先に、他人に助けを求める声をあげたのです。
以上のことから主人公が助けを求めることを忌避し、自身の母や森を憎んでいたのは、自分は自身の力だけで何とかしようとしているのに、周囲の人間の力を借りて同じ土俵に立つ他人に嫉妬していたからなのではないかと思います。
つまり、主人公の言う勝ち負けとは、他人の力を借りることなく自分の力だけで何とかやっていくことが勝ちであり、他人に頼ったら負けだったのではないでしょうか?主人公にとっての負けたくない相手は自分が思い描く理想の自分であり、他人に頼らなくても生きていけるというプライドを捨てることが、少し肩の力を抜いて生きるためには必要だったのかもしれません。
頑張ってきたこれまでの自分自身を認め、理想の自分と現在の自分との間の折り合いをつけ、周囲の人に助けを求める勇気を持ったことで、主人公はラストで夜明け前を迎えることができたのでしょうね!
まとめ
いかがでしたか?今回は西加奈子先生の「夜が明ける」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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