こんにちは、きなこぬこです。
今回は逢坂冬馬先生の「同志少女よ、敵を撃て」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
見事2022年本屋大賞を受賞しましたね!また、第11回アガサ・クリスティー賞大賞も受賞しています!
さらには、2023年このミステリーがすごい!7位、週刊文集ミステリーベスト10 7位にランクインしています!
引用元:全国の書店員が選ぶ「2022年本屋大賞」 逢坂冬馬さん「同志少女よ、敵を撃て」が受賞(2022年4月6日)
あらすじ
ロシアの小さな村で母と共に猟師として暮らすセラフィマ。ある日猟に出て村へ戻ると、戦争中のドイツ軍が村を占領して村人たちを惨殺しようとしていた。彼らを助けるために猟銃を撃とうとした母を目の前で殺され、ドイツ軍の男たちに襲われそうになったセラフィマだったが、間一髪のところでロシアの赤軍がやってきて助かる。目の前で全てを奪われて絶望していたセラフィマの前に女性兵士のイリーナが現れ、思い出の詰まった家に火を放たれる。怒りに染まったセラフィマは、「戦うのか、死ぬのか」と問うイリーナを殺すことを心に決め、復讐を果たすためにイリーナが教官を務める狙撃兵養成所に入り、仲間たちと共に成長していく。
以下はネタバレを含みます。
感想
読了後の充足感が凄かったですね!ボリュームのせいかとも思いますが、セラフィマと共に絶望し、苦しみ、葛藤しながら戦争を生き抜いたような気分になり、読者として彼女と共に闘い抜いたような気持ちになれたからかなと思いました。読み終わった時には、自分も彼女の同志ではないかと思ったりして……笑
少女たちに生きる目的を与え、仲間を与え、戦うための力を与えて常に強くあり続けたイリーナ、戦争中でも純粋無垢であり続けた上に未来を見つめ続けたシャルロッタ、敵味方関係なく人の命を助けようとしたターニャ、同じく敵味方関係なくこどもたちを助けようとしたママ、コサックの誇りを取り戻そうとしたオリガ。そして、最期まで苦しむ女性を助けるという信念を貫いたセラフィマ。作中に登場した女性たちがそれぞれに信念を持って大切なものを守ろうとしたり、自分らしさを大切にしている姿に心打たれました!
第二次世界大戦に戦地へ行ったのは男性がほとんどであるため、女性視点の戦争の話は珍しいですよね。その意味でも非常に新鮮なストーリーに感じました!最後に登場したノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ先生による「戦争は女の顔をしていない」は前々から気になっていた作品なので、この機会に読んでみようかと思いました。
イリーナの序盤のこの言葉が印象的でした。
「私の知る、誰かが……自分が何を経験したのか、自分は、なぜ戦ったのか、自分は、一体何を見て何を聞き、何を思い、何をしたのか……それを、ソ連人民の鼓舞のためではなく、自らの弁護のためでもなく、ただ伝えるためだけに話すことができれば……私の戦争は終わります」
この言葉は伏線として作用し、終盤にセラフィマが美化されて語られる戦争の話ではなく、自分が見て感じたありのままの話をすると心に決めたことで回収されましたね。セラフィマという共に生きてきた大切な存在がそう感じることで、イリーナにとっての戦争が終わりました。
一方のセラフィマは、幼い頃に見たソ連兵がドイツ兵と和解して抱きあう人形劇と同じように、イリーナの本当の優しさに気付きいてイリーナと抱きしめ合った時点で彼女にとっての戦争は終わったのではないかと思いました。
他のメンバーもそれぞれの終戦の基準を持っていて、戦争の先に普通の生活に戻って生きていく彼らの姿が想像できて楽しかったです。
考察
セラフィマにとっての「敵」の変化とタイトルの意味
セラフィマは最初の頃から苦しむ女性を守ることを信念としていました。そんなセラフィマはドイツ軍に占領されたスターリングラードの市街戦でドイツ兵の愛人として生きるサンドラと出会い、戦うことなく敵のドイツ兵に媚びる彼女に嫌悪感を抱きます。しかし、サンドラは相手のドイツ兵を心から愛しており苦しめられていませんでした。さらには、サンドラは死んだ夫の子供を身ごもっており、子供を守るためにも何としても戦争を生き抜こうという強い意志を持っていました。
セラフィマはサンドラと出会ったことで、ドイツ兵=女性を苦しめる存在という認識は間違っていたことに気付きます。ドイツ兵である相手はサンドラを苦しめることはなく、むしろ彼の愛人になったおかげでサンドラは生き抜くことができました。
その後も戦争が続いていきますが、ある日同郷の幼馴染であるミハイルに再会します。彼は以下のように自分たちの行動を合理化していました。
「どれほど普遍的と見える倫理も、結局は絶対者から与えられたものではなく、そのときにある種の『社会』を形成する人間が合意により作り上げたものだよ」
この言葉にある「ある種の『社会』を形成する人間」とは軍隊の多くを占めている男性兵士のことを指しており、彼らのコミュニティにおいて敵国の女性を襲うことはそのコミュニティ内の「当たり前」であると考えている様子でした。赤軍の狙撃兵としてのセラフィマの敵はドイツ兵ですが、女性を救う信念を持ったセラフィマの敵はドイツ兵だけではなく、味方の赤軍にもいたことに気付いてしまうのです。
最終的に彼女は女性を救うために味方を撃ちましたよね。タイトルの「敵を撃て」という言葉は、敵国のドイツ兵を赤軍の狙撃兵として撃つことではなく、女性を救いたいと願うセラフィマにとっての敵を撃つことだったのですね!
イリーナの生きがいと終戦
セラフィマは表の主人公ですが、イリーナは裏の主人公ですよね!最初から最後まで一貫してかっこよかったイリーナですが、彼女もセラフィマたちを育て共に戦う中で彼女の生きがいが変化していったように感じました。
狙撃兵として最前線で戦友のリュドミラ・ミハイロヴナと共に戦っていたイリーナですが、指を欠損したことで前線を退き、後進の育成に励みます。戦争という特殊な状況下で大切なものを奪われて絶望する女性たちに「戦うか、死ぬのか」と問うて生きがいを与えることを、イリーナ自身の生きがいとしていました。
リュドミラ・ミハイロヴナと再会した時に「差が開きすぎた」と話していることから、前線で戦友と肩を並べて戦うことのできなくなってしまったことに少なからず悔しさを感じていたのではないかと思います。
女性を救うことを生きがいにしていたイリーナでしたが、途中から狙撃兵の女性たちを一人前に育てることが生きがいになっていますよね。さらに、彼女たちが養成所を卒業した後は自らが隊長となって彼らを守るために行動しています。最後にはセラフィマのために命を捨てることを厭わない発言をしています。このことからも、自分が育てたセラフィマたちを守るために命を懸けることを生きがいにしていったのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?今回は逢坂冬馬先生の「同志少女よ、敵を撃て」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
コメント
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