物事の見方はひとつじゃない!二転三転する視点と構成、犯人の人物像について考察してみた!「ルビンの壺が割れた」宿野かほる先生 ※ネタバレ注意

こんにちは、きなこぬこです。

今回は宿野かほる先生の「ルビンの壺が割れた」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。 

タイトルにもなっているルビンの壺ですが、着眼点の違いで同じ絵がまるで違う絵のように見えるという有名な絵ですよね!

テーマになっているこの絵のように、こちらの小説も登場人物のメッセージのやり取りが進むにつれて視点が変わり、コロコロと印象が変化し、読了後も読み手側によって様々な捉え方をできる面白い作品ですね!

あらすじ

昔の婚約者である未帆子Facebookで見つけた水谷一馬は、彼女にメッセージを送る。最初は未帆子から返信がなく、それでもメッセージを送る水谷であったが、続けているうちに未帆子からもメッセージが返ってくるようになった。学生時代に劇団で演じた「ルビンの壺が割れた」のこと、結婚式当日に消えた未帆子の身には何があったのか――思い出話に花を咲かせながらFacebook上でのメッセージのやりとりのみで物語が進んでいくが、少しずつ二人の話す過去の話が食い違っていく。

以下はネタバレを含みます。

感想

Facebookのメッセージのやりとりという、現代風の変わった形式で物語が進んでいきます。

ネット上で昔の知り合いと再会することから過去の事件に引き戻されるというのは現代ならではの展開で思い白いですね!連絡先が手元に残っていなくても昔の知り合いと連絡を取ることができるSNSは便利ですね。

ですが、その便利さだけではない影の部分を描き出しているのが今作品の面白さ!SNS上では会いたい懐かしい人と繋がることもできますが、二度と会いたくない相手とも繋がってしまいます。自分が繋がりたくないと思っていても、相手が望めば私生活にまつわる情報を勝手に見られてしまうのです。

特にFacebookは実名で登録してリアルな友人と繋がっている方が多いので、twitter等のSNSでのアドバンテージである匿名性が低いと思っています。

 そして、水谷一馬は典型的なネットストーカーですよね…

最初の頃は未帆子に一方的ではありますが比較的丁寧なメッセージを送り続けており、未帆子のことをメッセージに返信せず結婚式もトンズラしたひどい女性だと思ってしまいましたが……よく考えてみると、未帆子を見つけた方法が写真を引き伸ばしたりメッセージを読み返したり友達を辿ったりと、並々ならない強い執着心を感じるんですよね……

そして終盤にかけて明らかになっていく彼らの過去を考えれば、メッセージ返すのは怖いですよね笑

未帆子の場合、SNS上にアップする情報も精査して、個人を特定されないための努力をしっかりとしていましたが、見つける人はこんな些細な情報からでも個人を特定してくるのかと怖くなりました。

SNSは便利ですし楽しいですが、悪用されないように本当に注意して使わないといけませんね……

個人的に印象に残ったのは、水谷が優子と叔父の秘密をみつけた時と未帆子が水谷の秘密を見つけた時の場面が共通している所です。どちらも、偶然覗いた相手の引き出しから秘密を見つけ出してしまっています。引き出しの中に隠されたものこそがその持ち主の本性を表しているようで面白いと思いました。 

今作は非常に薄い本で読みやすく、短時間で読めるというのも良かったですね!

衝撃的なラストだったのですぐにもう一度頭から読み直してしまいましたが、結末が分かった状況で読み返すと、一度目とはまた違った面白さが楽しめる作品ですよね!二度読み必須です!笑

考察

先入観を利用した斬新な構成 

繰り返し話していますが、この作品はFacebookのメッセージのやりとりで進んでいきます。これがこの作品の最大の特徴であり、どんでん返しをより面白く見せるための仕掛けだと思いました!

 水谷と未帆子は最後まで直接会うことはなく、メッセージの内容のみで物語が構成されていきます。一般的な小説では、登場人物の周囲の状況について説明があるのですが、この小説では2人の現状が全くわかりません。二人のそれぞれの視点から描かれた、主観的な情報しか読者には提示されないのです。

文字のみでやりとりをするメールでは、直接向かい合っての会話や電話に比べて誤解が生じやすいですよね。同じ言葉でも発言者と思っていたように受け取り手が読み取ってくれるとは限りません。

 逆に言えば、同じ言葉であっても受け取り手によって様々な捉え方ができ、想像の幅が広がるのです

 この作品では、登場人物の詳しいプロフィールがわからない分、少ない情報から登場人物のことを推測することが読者に求められます。

作中では話が進むにつれて登場人物たちの印象が二転三転していきます。ですが、読み返してみると未帆子と水谷のお互いの主張や態度は最初から一貫していて、二転三転していると思わされているのは、読者が与えられた情報から勝手に想像していた登場人物たちのプロフィールが、話が進むに連れて塗り替えられるからなのです!

ルビンの壺は見方を変えると別の見方ができる不思議な絵ですが、一つの見方が分かってしまうと、なかなかもう一つの見方を見つけられなくなってしまいます。「この絵はこう見るんだ!」と先入観を持ってしまうからなのでしょうか。それと同じように、この作品も最初から二人の立場や態度に変化はないものの、読者が自分の中で作り出した先入観で視野を狭めてしまっていることを嘲笑うような構成になっています笑

このメッセージのやり取りだけで先入観を持たせる騙し絵のような構成こそが、この物語の斬新さであり面白さなのでしょうね!

水谷一馬という人物像 

ひと昔前の女性観

水谷と未帆子との過去について思い出しながら、学生時代の思い出を語り合っていますが、話の中で未帆子の他にもう1人ヒロインが登場します。それが元婚約者である優子です。

優子は水谷に好意を抱いており、婚約しながらも叔父と関係を持ち続けていました。そのことに対し、水谷はショックを受け、嫌悪感を抱いています。未帆子は水谷には秘密のままソープで働いており、水谷はそのことで思い悩みました。

 水谷自身が性に対し潔癖であることは確かででしょうが、この2人の女性も比較的性に対して開放的ではあるとは思います。

 水谷は未帆子とのやり取りで、「女性は天性の演技者」と語っています。これは、水谷が2人の女性に騙されたと感じているから出てきた言葉なのでしょう。2人の女性はそれぞれの事情があって行動していたのですが、そのことに対し水谷は「許す」という言葉を使っています。これは、2人が間違ったことをしている前提での物言いです。2人からすれば事情があって意志をもって行動していたにも関わらず、悪いこともしていないのにこのような言われ方をされれば怒るのも当然でしょう。

2人に悪かったところがあるとすれば、水谷に対して自分のことを打ち明けなかったことだと思います。もちろん、恋人や婚約者に対してでも秘密を全て打ち明ける必要はないと思いますが、やっぱりちょっと不誠実だとは思います。

 しかし、水谷の上から目線の物言いを考えると2人の女性のことを自身の所有物のように思っていたように感じます。そして、水谷が嫌悪感を感じたのはその2人が自分に隠し事をしていたことではなく、他の男と関係を持っていたことに対してではないかと思います。彼女たちの人生は自分のものであると勘違いしてしまっているのではないかと思いました。

任転嫁する価値観

未帆子とのやりとりの中で、未帆子が結婚式に来なかったせいで自身の人生が転落したと本気で考えていることがわかります。また、「私の今日の不幸の原因はすべて、優子と未帆子にあると言えば、言い過ぎでしょうか――」とも記しており、2人の女性によって人生を壊されたと考えています。逆恨みも甚だしく、恐ろしいですね……

服役していた間も反省することなく、自分を追い込んだ周囲に恨みを募らせて生きてきたのでしょう。全く反省していないことが分かります笑

犯罪には、そこに至る理由がある。決して彼だけが悪いわけではないと――

水谷は多額の資金を持ち逃げした友人に対してこのように話しています。「機会を作ってしまっただけ」であると。彼は、犯罪を犯す原因は己ではなく、環境等の外的影響によるものだとしています。

そしてこの発言から、彼は自身の犯した罪は自分のせいではなく、周りの環境によって犯罪者にされてしまったと考えている様子なのが分かりますね。

もちろん人格形成に対して環境などの外的要因も少なくないとは思いますが、その人自身の性質にも大きく左右されるはずです。そうでなければ、同じ環境にいる人間が全員犯罪者になるという状況が生じてしまいます

水谷は全く己を省みることなく、なんでも人のせい、環境のせいにして生きてきたため、このような薄っぺらい人格が形成されたのでしょう。出所後は優子を殺害しており、未帆子からも必死で個人情報を引き出そうとしていることからも、2人に対して復讐を試みていたのでしょう。

水谷はすべての物事の原因を、他人や環境に押し付け、自分は悪くないという考えのもとに生きてきたのですね。

まとめ

いかがでしたか?今回は宿野かほる先生の「ルビンの壺が割れた」についてまとめさせていただきました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。