こんにちは、きなこぬこです。
今回は誉田哲也先生の「シンメトリー」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
こちらは姫川玲子シリーズの3作目です。
1作目の「ストロベリーナイト」は姫川玲子役:竹内結子さんでドラマ化されています!
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2013年には、シリーズ第4作目「インビジブルレイン」はドラマの続編として映画化されています。
引用元:
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グロめの描写の多いこのシリーズですが、今回は短編集です。今作では様々な姿勢で事件に向き合う姫川玲子をみることができます!
あらすじ
東京
姫川は巡査だった新人時代に品川署で世話になった先輩刑事、木暮利充の墓参りに、彼の妻と共に向かった。そこで、見覚えのある女性とすれ違う。彼女を見たことをきっかけに、木暮と共に解決した事件に思いを馳せる。
過ぎた正義
埼玉県の川越少年刑務所に姫川は徒歩で向かう。今までも繰り返しその刑務所を訪れているが、彼女の目的は収監されている人物に会うためではない。自分と同じように繰り返し訪れているはずの男と会うためであった。
右では殴らない
劇症肝炎で突然死した2人の男性。全く接点のないように見えた2人であったが、調べを進めていくと、2人を結びつけるものとして1人の女子高生の存在が浮かび上がってくる。
シンメトリー
毎日駅を利用している女子高生との何気ない会話に幸せを感じていた駅員の男。ある日、100人以上の死者を出した列車事故が起こり、彼女は男の目の前で亡くなってしまう。同時に自身の右腕も失った男は、事件の犯人への復讐を決意する。
左だけ見た場合
被害者の携帯のアドレスに登録されていた人物を1人ずつ当たっていく姫川。しかし、とある理由から、姫川は最初からアドレス帳の最後に登録されている“渡辺”という人物に目をつけて捜査を進めていた。
悪しき実
とあるマンションの一室で死体が発見される。第一発見者である被害者と同棲していた女性は、通報した後から行方不明になっていた。途中から捜査に参加した姫川班は、同棲していた女性を発見し、取調べを行なっていく。
手紙
姫川が一課に配属される前、今泉と初めて会った事件で逮捕した女性本人から、姫川宛てに出所したことを知らせる手紙が届いた。姫川は彼女と会い、事件での出来事を思い返す。
以上7編が収録された姫川玲子シリーズ初の短編集です。
今までは長編のみでしたが、短編だからこそ姫川班の日常生活が垣間見えたり、ひとつひとつの事件に対する彼女の真摯な姿勢が見えますね!
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以下はネタバレを含みます。
感想
相変わらずカッコいい姫川玲子がみられるこちらのシリーズ。
バリキャリの強い女性は憧れますね!同じ女性としても心から尊敬できます。
今回は過去の事件を振り返ったり、長編では扱わないちょっとした事件を解決していく姿がみれます。
これまでの長編よりも、事件が起こらない日の姫川班がみれたり、過去の出逢いを知ることができたりと、このシリーズの世界に深みをもたらしてくれる話が多かったですね。
姫川シリーズといえば、グロい殺しに定評がありますが(と、私は勝手に思っています笑)、今回は表題作であるシンメトリー以外はグラテスクな殺人はありません。
しかし、各話の随所にかっこいい言葉やかっこいい姫川玲子がいて、姫川シリーズらしい王道刑事ものとなっています。
読みやすくスピード感もあり面白かったです。
ですが、個人的には長編に比べるとなんとなく物足りない感じがしてしまいますね…笑グロさが足りないのでしょうか?笑
以下は各話ごとに簡単に考察したもののまとめになります。
考察
各話の題名がシンメトリーになっているのは巻末の解説にも書いてあったのですが、話の内容も似通った内容でシンメトリーになっていると感じました。
⒈東京⇄⒎手紙
どちらも過去の回想。そして、加害者との再会が話の物語の導入になっています。
⒉過ぎた正義⇄⒍悪しき実
どちらも正義とは何なのかについて言及し、読者に対して正義の捉え方を尋ねているようになっています。題名も正義と悪ですね。
⒊右では殴らない⇄⒌左だけ見た場合
加害者側が自身の行動に責任を持ちません。そして、自身の行動の要因を社会や環境、周囲の人々に責任転嫁しています。タイトルも左右になっていますね。
⒋シンメトリー
このお話は独立しているように思います。
ちょっとしたことですが、なんだか共通点があるように思うとおもしろいですね笑
東京
美代子が飛び降り自殺をしようとする場面に出くわす姫川と先輩刑事の木暮。
そこでの木暮の心が胸に染みます。
「君には、したいことはないのか。夢や希望は、ひとつも、なんにも、ちっちゃなことでも、一個もないのか。……俺は、あるぞ。俺にはある。俺は、歩けなくなるその日まで、刑事であり続けたい」
この言葉、「、」が多く、よくみると同じことを繰り返し言っています。
しかし、だからこそ木暮の心からの言葉であることが感じられます。
末期がんで余命1年と宣告され、未来を閉ざされた木暮が未来への希望を語るからこそ、言葉に重みを感じます。
美代子は被害者から執拗なイジメを受けていました。死ぬように辛い思いをし、その上偶然といえ、その相手を殺してしまった。しかし、長い人生が先に待っている美代子が、老い先短い木暮の目の前で命を絶とうというのは皮肉ですね。
そんな木暮だからこそ、美代子に自殺を思い留まらせる言葉をかけることができたのでしょうね。
上記の言葉は美代子の心を動かし、木暮はこの言葉を美代子に送ったことにより、美代子の心の中で死んだ後も刑事として生き続けています。
最期まで刑事でありたいという木暮の願いは叶えられたのでしょうね。
過ぎた正義
姫川に自身の考えを全て当てられた倉田は以下のように話します。
「人を殺すに値する理由など、この世には一つもない。逆にいえば、どんな些細な理由でも人は人を殺すということだ。そこにあるのはたった一つ、選択する機会にすぎん」
殺人を犯しているにも関わらず、殺人を犯すに値する理由はないと話す倉田。これは実際に人を殺しているからこそ言える言葉であるのかもしれません。
自分は殺人を選択したと。そして、殺人を犯した人間は、殺人を犯した後もその殺意を心に留め続けると話しています。
対して姫川はこう答えています。
「殺意が危険なのは、それを犯してしまった人間に限ったことではないんじゃないですか。……殺意なんて、誰の中にだってあるでしょう」
確かに倉田の主張でいえば、一度でも殺意を持った人間は実際に殺人を犯したか否かに関わらず、全て裁くべきという考えに行きついてしまいます。
倉田は自身の息子が殺人を犯し妻を他殺されるという、加害者であり被害者でもあるという特異な立場にあります。したがって自身が誰かを裁く立場にはないとも考えています。
ここで、上記の主張との矛盾が生じます。
どんなことがあっても殺人を犯すという選択をしてはいけないと考えながらも、息子に犯した罪を償わせるために自ら進んで殺人を選択しようとしています。
そして、それを自らの正義だと信じています。
しかし、それは倉田自身も救われない選択なのでしょう。
姫川は殺人を悪とし、彼女正義の元で倉田を否定し宣戦布告していますが、倉田の殺人を止めることは、倉田の息子救うのみではなく、矛盾した思想を持った倉田自身も救うことになるのでしょうね。
この話の続きを気になるところですね!
右では殴らない
この話の中心となるのは下坂美樹という女子高生です。
彼女は自由奔放ですが、売春をして薬をばら撒くという、少しおいたのすぎることをしてしまいました。彼女はばら撒いた薬が危険なものかどうかは確信はなかったものの、自身の客に譲渡します。自身で使うことはなかったため彼女は助かりますが、薬をもらった男たちは死んでしまいます。
彼女の家は裕福であり、決してやむを得ない理由で身体を売っていた訳ではありません。
それでは、なぜ、彼女は売春していたのでしょうか。
理由は、ただただその瞬間の快楽を求めていたからではないかと思います。
自分の遊ぶ金を稼ぐために、自身の身体を商売道具にしていました。今が良ければ良い、バレなければ良い、自分が良ければよいという、自己中心的な考えの持ち主です。
だから、自分が薬を仲介して渡した人間がどうなろうが興味はないのでしょうね。
右では殴らないのタイトルの意味は、利き手を怪我した玲子が左手の方がマシだった、って意味で最後に後悔して言った言葉ですね。
かっこいいのにたまにこういう抜けてるところが見えるのが、姫川玲子のかわいいところですね笑
シンメトリー
「あの轢断遺体を見たときに私、思ったんです。これは左右対称、シンメトリーであることに、異様なまでに執着のある人物の犯行なんだろうな、って」
犯人と対峙して伝えた言葉ですが、姫川玲子の凄さが伝わる一言ですね笑
このシリーズでの被害者の殺害方法は毎回凄惨ですが、その裏には犯人の強い信念が隠れています。殺しであるにも関わらず、その殺されたかはどこか芸術的ですらあります。
そして、事件の解決を目指しながら、犯人の思いに迫っていくのがこのシリーズのおもしろいところですよね。
今回の短編集の表題となっているこの話ですが、今回収録されている話の中で、最もこのシリーズの特色が出ている話だなと感じました。
電車に轢かれて「干物のように」身体を真っ二つにされた被害者ですが、正中線に左右対称であることこそが犯人の拘りでした。
この犯人は、事件発生時に顔見知りの女子高生を助けようとして右腕で彼女を引きずり出そうとします。しかし、そこで傾いていた電車が倒れてしまい、彼女の身体と共に彼の右腕は車体の下敷きになってしまいます。
彼女と繋がっていた右腕は、彼にとって何気ない日常生活の象徴だったのでしょう。当たり前にあった日常、仕事、駅を利用する彼女との何気ない会話。
それら全てが自身の右腕と共に奪われてしまいました。彼にとって右腕があること、対称性があることこそが日常でした。
それらを奪えわれて、犯人は非対称になってしまったのです。
だから、自身の右腕(日常)を奪い非対称な存在にした犯人の命を奪うとき、あえてシンメトリーな遺体を作り上げたのでしょうね。
左だけ見た場合
私は超常現象肯定派なので被害者が超能力を使えるという前提で話を進めていきますね笑
この話の被害者は超能力が使える手品師という変わった人物像ですが、超能力という非現実的な能力を持っているにも関わらず、現実世界に真摯に向き合っている人物でした。
事業に失敗し大損するも、言い訳をすることなく各方面に頭を下げ、雇っていた人々にも頭を下げて給料を渡しています。
しかし、加害者である渡辺にはめられたことを知り、さらには渡辺に会って殺されてしまいます。渡辺は逮捕された後も罪は認めたものの、社会のせい、周囲のせいと言い訳を重ねて反省の色がみえません。
そんな渡辺を見た姫川は、こんな人間をどれだけ逮捕したところで社会が良くなっていくのか疑問を抱いてしまいます。
それに対する上司の今泉の言葉がこちら。
「終わらないから徒労なんじゃない。繰り返し、循環させ、維持していくことにこそ意味がある」
素敵な考え方ですね。普段は登場が多くない今泉ですが、彼の信念が見える話でしたね。
悪しき実
悪しき実とはシキミという木のことでした。
猛毒を持つ実をつけるにも関わらず、仏具や数珠に使われたり、はたまた神前に供えられたりとその木は死者を弔う意味を持つ植物です。
その木を使って岸谷は殺してしまった人の数だけ自作の地蔵を掘っていました。自分が殺した使者を自身の手で弔っていましたが、地蔵が持つシキミの毒が蝕んでいたのは、ついに苛まれる岸谷の心なのでしょうね。
この事件は他殺ではなく自殺ではありましたが、なんとも言えない後味の悪さが残りましたね。
⒎手紙
「罪を犯した人間は、まず赦されて、その赦しを感じることができて初めて、罰を受け入れることができるんじゃないかな、って思ったの。……もちろん、理想論よ」
以前逮捕した加害者に会ってみると、人が変わっており、しっかりと自身の罪と向き合い新しい生活を初めていたことに驚いた姫川の言葉です。
罪を犯した人間を赦す存在が必要であるということですね。とはいえ、犯した罪の重さや加害者の人格によるところもあるので、「理想論」としているのでしょう。
姫川は犯人の思想に近づき、共感してしまう力を持っているからこそ、理想論とはわかりながらも、反省をした犯罪者が赦されることを心のどこかで願っているのではないかと思います。
まとめ
いかがでしたか?
今回は誉田哲也先生の「シンメトリー」についてまとめさせていただきました。
姫川玲子シリーズはまだまだ続きがあるので、どんどん読み進めていきたいと思います!
アメリカの連続ドラマのハンニバルとかすごく好きなので、こういう作品が好きな傾向がありますね笑 狂気の中にも芯がある感じが面白いと感じます。探偵の活躍だけを描くのではなく、犯人の思いをしっかり描写している作品が好きですね。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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姫川玲子シリーズの他の作品はこちら!
4作目 「インビジブルレイン」
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5作目 「感染遊戯」
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