【「名探偵のいけにえ」白井智之先生(ネタバレ注意)】カルト宗教の村で起きた惨劇!多角的論理展開に圧倒される!あらすじ・感想・考察をまとめてみた!

こんにちは、きなこぬこです。今回は白井智之先生の「名探偵のいけにえ」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。

今作は実際にあった宗教団体の実際の事件を基に描かれています。事件の起こった年月日まで完全一致です!

あらすじ

探偵の大塒宗は、助手の有森りりこを追って人里離れた土地に作られたジム・ジョーデン率いる宗教団体・人民教会の町、ジョーデンタウンを訪れる。そこではジョーデンが起こす奇蹟を信じる人々が集まって生活しており、りり子は多国籍な調査団の一員として奇蹟の真偽について仲間と共に調査を行っていた。身の安全は保障されているとのことだったが、大塒が来た翌朝に調査団の一員の素性を隠して教会の中枢部に潜り込んでいた男の死体が発見される。さらには、調査団のひとりである精神科医の女性が現地の女性たちとのお茶会の最中に急死する。これらの事件は殺人なのか、それとも奇蹟によるものなのか――

以下はネタバレを含みます。

感想

まず、タイトルのインパクトがすごいですよね!誰が名探偵なのか、いけにえとは何なのかを考えながら読み始めたのですが、あまりの面白さに途中からページを捲る手が止まりませんでした!特に解決編からの二転三転推理には本当に圧倒されました!作中ではりり子はひとつ、大塒がふたつの推理を披露していましたが、その全ての推理が論理が破綻することなく共存しているのがすごいですよね!

りり子は三つの事件について誰かが殺意を持って行動した結果ではなく偶然起こった事故であったという穏便な推理を展開しましたが、大塒がその推理をひっくり返します。りり子が殺害された事件も含めた四つの事件について、人民教会の信者たちが信じる奇蹟が存在している前提の推理と、信者以外の奇蹟を肯定していない人間の推理の二種類を披露する大塒には驚かされました!

大塒がすごいのは、自分以外の人間が奇蹟を信じている状況下において奇蹟を信じない人間でありながらも奇蹟を肯定・否定する二種類の推理を披露することにより、指導者であるジム・ジョーデンをアンビバレントな状況に追い込み自分の思い通りの行動するように誘導したことです。信者たちの見ている世界を否定することなく指導者を追い詰める……序盤に登場した「探偵が加害者になりうる」という言葉の意味が最後にやっと分かります。

途中までは探偵の才能を持ったりり子が華麗に事件を解決し、無事に帰国するのかと思っていましたが……りり子の推理を披露した段階でかなりページが残っていたので不安だったのですが、まさかそこからが本番だったとは笑 作中全般で探偵の才能を発揮して大活躍だったのはりり子だったので、大塒が推理を始めた時には驚きました!

視点の異なる多重解法の役割の意外性に、先の読めない展開—―個人的には今年読んだミステリーの中でもかなり上位にランクインする面白さでした!

それにしても、大塒の友人の乃木が現地到着直後にあっさり射殺されたことには衝撃を受けました笑

考察

加害者となりうる探偵という存在

今作の山場である大塒が二種類の推理を披露する場面ではジム・ジョーデンに一矢報いた大塒の勇気や頭脳に感動するのですが、その後のQと大塒のやりとりによって大塒の意図が明かされると一転しますよね。

まず、奇蹟を肯定した際の犯人は指導者のジム・ジョーデンになります。信者の心離れを防ぐために奇蹟を起こして信仰心を持たなくなった者を罰したかったものの、信者たちは町の中では怪我や病気がなく、四肢欠損も回復すると信じているため身体的に攻撃することはできません。そのため、外部からやってきた信仰心を持たないを自分たちの町の襲撃者として調査団を殺害し、人民教会を敵にまわせば神罰が下ることを立証しようとしました。

そして、奇蹟を否定した際の犯人は学校の校長であるWになります。ジョーデンの襲撃者が来るという予言がいつまで経ってもあたらない現実とジョーデンの予言は正しいという信仰の齟齬を解消するため、調査団を襲撃者とみなして殺害しました。この推理が奇蹟を否定してしまうのは、Wが成人でありながら少年のような体格であるにもかかわらず、病気が存在しない町ではWは平均的な体格の大人に見えているためです。

以上から、大塒がジョーデンタウンにおいて全ての決定権を持つジム・ジョーデンに迫ったのは――

奇蹟を肯定して殺人者となるか。奇蹟を否定して潔白の身となるか。

――だったのです!この二択を提示することにより、この二択しか選択肢は存在していないと思い込むように誘導しています。

序盤でジョーデンタウンの住人たちに服毒させ、自らは頭を打ちぬいて死亡するジム・ジョーデンの姿が描かれていましたが、この場面でジョーデンは「自分はあの男にはめられたのだ」と考えています。最初は何のことか分かりませんが、Qの推理を読んだ後なら理解できます。ジョーデンは全ての決定権を持つことを利用して信者を誘導し、信仰を守り抜くことを選んだのです。

脱走を試みる者、ジョーデンの教えに疑問を持つ者、ジョーデンタウンの暮らしに不満がある者……もともと沈みかけていた船でしたが大塒がとどめをさし、ジョーデンが信者と共に服毒自殺するように誘導したのでした。

では、大塒は何故こんな大規模な集団自殺を引き起こすことができたのでしょうか?それは、彼が論理的思考によって事件を解決し大勢の前で披露する、探偵役だったからですよね。ミステリー小説の中では、探偵が言ったことが真実になります。それは教祖であるジム・ジョーデンが独裁支配しているジョーデンタウンであっても変わらなかったのです。信者たちは自分の力で考えることを放棄し、探偵である大塒が示す道しか選択肢がないものと考えてしまします。そのため、探偵役に加害の意図があれば簡単に誘導されてしまうのです。

もちろん、加害の意図がなかったとしても探偵が指名した無実の人物が犯人に仕立て上げられてしまうこともあります。りり子が大塒に警告していたのは、探偵の言葉が持つ強大な影響力だったのでしょう。

信仰と現実の齟齬

以下は今作で最も印象的なセリフであり、各人物の行動の動機の説明となっている言葉です。

「信仰と現実が齟齬をきたすと、信者は新たな解釈を生み出して齟齬を解消しようとする。さらに活動を大きくすることで、その正しさを裏付けようとする。結果的に信仰はむしろ強化される」

大塒のふたつの推理において、どちらの犯人も現実と信仰の齟齬を解消することが動機となっています。しかし、この二人以外にも現実と信仰の齟齬を解消しようとしたのが大塒とQでした。

名探偵・有森りり子の死と大塒の理想

大塒はQの推理に対し自身がジム・ジョーデンと人民教会の信者たちを自殺に追い込む形で殺害したことを認めますが、その際に「りり子のため」と発言しています。大塒は、最高の探偵だと思っていた有森りり子が、信者のひとりの男の殺されたという現実を受け止めることができませんでした。Qはその時の大塒の考えを以下のように推察しています。

彼女が命を落としたとすれば、それはもっと重大な、世界を震撼させるような大惨事に巻き込まれた結果でなければならない。そのために必要なのは犠牲者の数だ。

大塒の中で名探偵とは強大な悪に立ち向かって散るもの、そのため大塒はりり子の死に方が名探偵の死に方として相応しくないと考えたのです。りり子の死に様という現実と大塒がりり子に抱いた名探偵としての信仰に齟齬が生じていたと言えますね。そのため、ジョーデンタウンに暮らす信者たち918人とジム・ジョーデンの命を生贄とし、有森りり子を死に様から名探偵に仕立てたのです。見事なタイトル回収ですね!

Qの憧れた探偵像

実はもう一人、現実と信仰の齟齬を解消しようとしている人物がいます。それがQです。彼は幼い頃にジョーデンタウンにやって来た探偵のりり子と大塒に出会い、二人に憧れを抱きます。Qが信仰したのはは、探偵という生き方をするりり子と大塒でした。しかし、りり子は無残に殺され、大塒は探偵としての能力で大勢を虐殺します。一方は死に、一方は探偵としての力を悪用したのです。このことを暴いたQはショックを受けます。

以上のことから、探偵として生きる二人へ抱いた憧れという信仰と、二人の辿った末路という現実にQの中で齟齬が生じてしまいます。

しかし、Qは日本で大塒の事務所があった場所を訪れたことで、上記のように大塒もまた信仰と現実の齟齬に苦しんだ結果行動していたことに気付きます。

大切なのはどう死ぬかではなく、そう生きるかだ。それをこの場所で証明してみせる。

こうしてQは、死に方で有森りり子を名探偵にした大塒とは対照的に、自らの生き方をもってしていきながら名探偵になることができることを証明することで、幼い頃自身が憧れた探偵二人の生き方を肯定することを決意します。

とても綺麗な終わり方で気持ちいいですね!

まとめ

いかがでしたか?今回は白井智之先生の「名探偵のいけにえ」についてまとめさせていただきました。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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