こんにちは、きなこぬこです。
今回は道尾秀介先生の「いけないⅡ」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
今作はいけないシリーズ2作目ですね!このシリーズでは、各章の最後に添えられた写真から、各章に隠された真相を読者が考えていく必要があります!その後の章や終章での情報も含めて真相を考察していきます!
あらすじ
冬には非常に寒くなる牡丹が名産の街・箕氷市。街の観光名所である明神の滝に、高校生の桃花は一年前に失踪した姉の痕跡を探して訪れて滝に願う。小学生の真は夏の牡丹祭りの日に、嘘つきの同級生を驚かせるために叔父に協力を依頼する。千木夫妻は、暴力を奮う息子をうっかり殺してしまったと警察に出頭する。蓑氷市で起こるそれぞれの事件が繋がった時、何かが起こる。
以下はネタバレを含みます。
感想
今作は『第一章 明神の滝に祈ってはいけない』『第二章 首なし男を助けてはいけない』『第三章 その映像を調べてはいけない』の各章で同じ地域に住む異なる人物たちの視点からの物語が描かれます。一章ごとに完成された短編としても楽しめますが、『終章 祈りの声を繋いではいけない』を読むことで各章の物語がリンクして、残されていた謎が暴かれて物語が動きます!
今作でも前作と同様に、全ての真相を書いてしまうのではなく、各章の終わりにある写真を提示することで読者に推理させる構成となっています。しかし、ひとつの章内で謎が解けなくてもそれ以外の章で謎が明かされていたため、答えを完全に明記しない前作よりかなり難易度が下がっていたように思いました!
『第一章 明神の滝に祈ってはいけない』は非情に仕掛けが凝っていて、面白いと感じました!『第二章 首なし男を助けてはいけない』では主人公が自分の罪に気づかないことを願っていましたが、終章で再登場することで自らの罪に気づいて苦しんでいる姿が描かれ、悲しかったです。最終的には再び声を出すことができるようになって安心しました!『第三章 その映像を調べてはいけない』を読んだ限りでは夫婦の息子殺害は正当防衛であると思って読んでいたものの、終章で遺棄した死体を遺棄した場所を隠した彼らの真の目的が明かされたことで心象が変わりました…
個人的にはこのように全てを明記せずに読者に推理させる作品が大好きなので、今後もシリーズとして続編が出ることを心待ちにしています!
各章の物語と写真に関する私の推理は、後述の考察に書いていこうと思います!
考察
以下はあくまでも私個人の推理ですが、読了後に分かりにくかった箇所を考えるための参考にしていただければかと思います!先ほども述べたように、今作では各章の中のみの情報で真相を推測するのは少し難しいかもしれませんがその後の章で必ず回答が提示されていたため、個人的には前作よりも難易度は下がったのではないかと感じました。
第一章 明神の滝に祈ってはいけない
この物語でポイントになるのは事件の時系列と冷蔵庫の死体が誰なのかですね。写真は非難小屋を後にする時に撮影されたようで、扉の向かって右側には普通の雪だるま、左側には牛の雪だるまが映っています。
物語内の時系列
物語内では㈠~㈧に区切られていますが、奇数は姉を探す桃花の主観、偶数は非難小屋の管理者の大槻の主観で交互に展開されています。さらに、奇数は桃花が失踪した日の出来事、偶数は桃花が失踪してから一年後の物語であり、交互に登場すること一年前と行ったり来たりしているものの、読者には時系列的につながりがあるように錯覚させる仕掛けがされています!
干支の雪だるま
上記にように時系列が入り乱れていることに気付くためのヒントのひとつは、大槻が山小屋の入り口に飾る干支の雪だるまです。まず、最初に桃花が家族団らんするシーンで、姉に宛てて送られてきた年賀状が登場します。年賀状にはメッセージの語尾に『チュー!』と書かれていることから、干支の動物がネズミであることが分かります。また、桃花が可愛いと褒めたのは「雪ネズミ」と明記されているため、桃花が滝を訪れる話はネズミ年の出来事であることが分かります。
しかし、章の最後に登場する写真には牛の雪だるまが映っています。そのため、大槻が滝に身を投げたのは一年後の出来事であることが確定します。
冷蔵庫の中の死体
時系列に気付くヒントのもうひとつは、冷凍庫の中の死体が誰のものであるのかです。次の章以降で、大槻が自殺した後に、冷凍庫からは大槻の母と桃花の二人の死体が発見されます。そのため、桃花が避難小屋の冷凍庫で見てしまったのは大槻の母親の死体であったことが分かります。
大槻が主観の文章では冷凍庫が故障して死体が溶け出していることが描写されていますが、その死体の上着にはクマが描かれていると書かれています。また、章の冒頭の少女が祈っている写真の胸元にもクマが付いており、指も数えてみると9本しか確認できないことから、写真の少女は冷凍庫から脱出する時に中指を怪我した桃花であることが分かります。
桃花が桃花の死体を見つけることはあり得ないため桃花が冷凍庫に隠れた時に見つけたのは大槻の母の死体であり、大槻が冷凍庫の中で溶けてしまうことを心配して見ている死体は桃花のものであるため、時系列がおかしいことに気付くことができます。
ちなみに、この章では桃花の姉の緋里花の消息は分からないですね。
第二章 首なし男を助けてはいけない
この物語でポイントになるのは叔父さんと主人公の真の認識のズレですね。写真にはスエットを着た人型のものがぶら下がっていて、窓枠には濡れたつなぎがかけられている様子が映っています。
人形と人間の手の違い
作中で人形の手には指まで作りこまれていないことが明記されていますが、写真で首を吊っているものの手はしっかりと五指が確認できます。さらには、真と最後に話した時来ていた上下スウェットの姿です。以上のことから、写真の中で首を吊っているのは叔父さんであることが分かります。
主人公にとっての殺人と叔父さんにとっての殺人
主人公の真は、叔父さんが運転する軽トラが木に衝突したことによってぶつかり川に流れていったのは自分たちが仕掛けた首なし男の人形ではなく、自分たちを驚かせようとして仕掛けをしていた同級生だったのではないかと思い込んでしまいます。そして、叔父さんに川に流れていったのは人間であることを確認し、「もしかして……殺しちゃったの?」と問いかけてしまいます。しかし、叔父さんはトラックでぶつかった時に流れた人形を元通りにセッティングし直していたため、流されていったのが人間でないことは分かっています。
そのため、叔父にとっての”川に流された人間”とは、叔父が中学生の頃に叔父を助けようとして川に流されて亡くなった真の祖父、叔父の父のことであり、自分を助けようとした父の腕を振り払ってしまったことで長年自分を責めてきた叔父は、甥である真に罪を知られて責められたと勘違いしてしまい、人形に罪を肩代わりさせるのではなく実際の自分の首をくくってしまいました。
叔父が自身の父を殺してしまったことによつ精神的ショックを受けて喋れなくなったのと同じく、その後に登場する真は自分の言葉で叔父を自殺に追い込んだことに気付いてしまい、自責の念から喋ることが出来なくなってしまっています。
第三章 その映像を調べてはいけない
この物語でポイントになるのは死体を遺棄した場所を何故ミスリードしたのかですね。写真には昔家族で訪れたとういう秋桜畑の映像を映すテレビが映っています。
息子が一番好きな花
息子を殺害した千木夫妻は、警察に森の中に死体を埋めたとミスリードします。作中で森の中を歩く過去の千木一家のすずらんに関するほっこりしたエピソードが描かれていますが、これも読者に対するミスリードでした。
そして、「一輪きりの花の下」に死体があると最後に書かれています。本当に息子が好きだった花はコスモスであり、隈島が千木家を訪れた時の居間の描写に「その座卓には一輪挿しが飾られ、ちょうどいま盛りの秋桜が一花」の記載があることから、息子の死体は座卓の下に埋められていることが分かりますね!
終章 祈りの声を繋いではいけない
それぞれの願いと明神の滝
桃花の捜査に携わる隈島は「俺に事件を解決させてください」、叔父を自分の言葉で殺してしまった真は「またしゃべれるように」、息子を刺殺した事件の後夫が病死してひとりで罪を背負って生きていくことになった千木智恵子は「もう、全部終わらせてほしい」と明神の滝に祈ります。
真は智恵子を家事の中から救い出したことをきっかけに声を取り戻します。そして、その時に智恵子の物だと思って回収していたスマホを入院中の智恵子の元に届けるのですが、これは緋里花のスマホでした。写真にテレビやリモコンが映りこんでいることから、床頭台に置かれていることが分かります。
桃花と緋里花の両親は桃花のスマホの番号を引き継いで別のスマホで使用しており、定期的に緋里花のスマホに電話をかけていると話していました。そして、真がスマホを返すときに充電したり電源を入れたりしていたのかもしれません。写真では桃花のスマホから緋里花のスマホに電話がかかってきている瞬間が捕らえられています。
この場面がいつのことなのかは分かりませんが、もしかしたら智恵子の病室に見舞いに来ていた隈島がこの桃花からの電話がかかっているスマホを発見できたのかもしれません。そうすると、隈島の願いも智恵子の願いも叶いますね!
ちなみに、殺された桃花の願いは「お姉ちゃんが、見つかりますように」だったので、明神の滝は滝に祈った全員の願いをきちんと叶えられたことになりますね!
まとめ
いかがでしたか?今回は道尾秀介先生の「いけないⅡ」についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
コメント
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