こんにちは、きなこぬこです。
今回は綾辻行人先生の「another エピソードS」を読んだ感想・考察についてまとめていきます。
anotherシリーズの2作目であるこちらは、1998年の夏のもう一つの物語を描いています。夜見山から離れた呪いの圏外で起こった出来事に、前作の登場人物 見崎鳴が関わっていきます。
今作では幽霊が語り部という一風変わった形式で物語が進んでいきます。
あらすじ
1998年、夏。夜見山の郊外にある〈湖畔の屋敷〉で暮らす賢木晃也は死んだ。彼は自身が死んだことを幽霊として認識しながら、意識が途絶えつつも屋敷の周辺を彷徨っていた。死んだことはわかっているものの、死体の場所も何故自分が死んだのかも分からない。記憶も所々はっきりとしない。どうやら自分は世間的には死んだのではなく、旅行に行って行方不明ということになっている。自分の死体の場所を探すべく屋敷内や周辺を探すがなかなか見つけられず困っていた時、夏休みで別荘に来ていた見崎鳴に再開する。彼女は死者を見ることができる特別な瞳を持っていた。二人は死体を探すべく協力するが…
以下はネタバレを含みます。
感想
「another」を読んだ後に続けてこちらの作品を読んだので、シリーズの不気味な世界観にどっぷりつかることができました!
続編というよりは番外編の作品で、1998年の鳴のもう一つの物語が描かれています。
前作を読み込み、今回こそは騙されないぞと意気込んで読み始めたのですが…見事に騙されてしまいました笑
悔しい!笑
幼い想くんが抱えた孤独や生きづらさが読んでいて辛くなってしまいましたが…彼の実年齢よりも大人びていて、周囲に対して距離を置く姿を見て、きっと生きづらくて苦しいだろうなと思ってしまいました。
ちなみに、想君は三年後の世界を描いた次作の「another 2001」の主人公として再登場していますが、この物語内で描かれている出来事が彼の今後の人生、死の向き合い方にも大きな影響を与えているのが分かります。
「エピソードS」は番外編ではあるものの、前作と次作を繋ぐ重要な役割を担っていました!
考察
『S』は誰のこと?
物語の冒頭、鳴は「もう1人の『サカキ』のお話」と言って別荘で起こった出来事について榊原恒一に語り始めます。
そして、タイトルには「エピソードS」の文字。
これはサカキこと、賢木晃也の物語であることが分かります。しかし、それだけでしょうか?
タイトルの『S』が示している真の主人公は賢木だけではなく、自分のことを賢木晃也の幽霊であると思い込み、賢木晃也の幽霊になっていた想君のことも含めているのだと思います。
これは二人の『S』の物語なのです。
唯一心から敬愛する大人であった賢木晃也の死の場面に立ち会ったものの、その事実を受け入れて自身を保つことができなかった想君の、事実を受け入れて賢木晃也の死を悼み、生者として、もう一度歩き出すための物語なのでしょうね。
三年三組の呪いの影響力
賢木晃也の死因は結果的には事故が絡んだ自殺でした。
想君の中の賢木晃也は、以下のように改装しています。
僕はずっと”死”に囚われつづけていたんだ。過去を引きずって”死”のリスクを強く恐れながらも、裏腹にどこかで”死”に惹かれていた。
三年三組の呪いは、若くして”死”と真正面から向き合わなければならない状況に置かれることにより、”死”に対する考えが歪められてしまうほどの強烈な経験であり、賢木晃也の死生観が中学生時代の三年三組の呪いに大きく影響を受けていたことが分かります。
そして、その死生観に関する影響は、呪いに直接関わった人物のみではなく、想君のような周囲の人までも巻き込んでしまっています。
死生観はひとそれぞれですし、成長の過程で変化していくことも確かではあります。
しかし、三年三組の呪いの一年をたとえ生き延びたとしても、その後の人生にも影響を与えており、呪いは一年では終わらず、心に残り続けてしまうということが描かれています。
孤独と死への希望
死ねば、先に死んだ『みんな』とつながれる
と、賢木晃也は考え、想君にもそう伝えていました。
鳴と恒一は、鳴がこの話を一通り終えた後に、『みんな』=賢木晃也の初恋の相手(その年の復活していた死者)ではないかと結論づけています。
しかし、今回はこの説に対して反論していきたいと思います笑
賢木晃也は、年度の半ばで呪いから逃れた自分自身に少なからず罪の意識をもっていました。また、世捨て人のように、広い館に一人きりで悠々自適に暮らしていました。
また、想君は再婚した父との距離感が掴めず家庭内で家族との壁を作ってしまい、孤立していました。
二人には孤独という共通点があることが分かります。
このことを踏まえて、もう一度『みんな』とは誰を指すのかを考えてみます。
二人は生きていることの孤独感から、誰かとつながること、独りではなくなることを望んでいたのではないかと考えられます。そうして今生きている世界ではなく、死後の世界にこそ自分たちが感じている孤独を解消してくれる相手がいるのではないかと考えているのでしょう。
鳴は死こそが孤独として、真っ向から否定していますけどね笑
以上のことから、『みんな』の定義は二人とも異なるのではないかと考えます。
【賢木晃也】
→呪いによって命を落とした元クラスメイトたちと名前の思い出せない初恋の相手
【想君】
→特定の誰かではなく、自分に寄り添ってくれる温かい存在(母親のような存在)
同じ言葉を使ってはいるものの、二人の想像する『みんな』の対象は全く異なっていることが分かりますね!
まとめ
いかがでしたか?
今回は綾辻行人先生の「another エピソードS」についてまとめさせていただきました。
次はいよいよ「another 2001」ですね!次こそ騙されないように全力で挑みます!笑
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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